第1回「目覚め」<3/3>


―7曲目―

 僕が中学生のとき、毎週聴いていたラジオ番組に「オールジャパンポップ20」という洋楽のチャート番組がありました。番組の中に、今後のチャートインが期待される新曲紹介のコーナーがあり、そこで紹介されたある曲に、僕は一瞬で恋に落ちてしまいました。聴いてください。

 この曲に胸のど真ん中を撃ち抜かれ、ドキドキがとまらない僕は、急いでレコード屋さんに駆け込みました…が、新譜コーナーにその姿が見当たりません。新人グループ(実際には、イギリスで既に何年も活動していたので、あくまでも日本デビューという意味での新人)の扱いってこんなもの?それとも、地方だからレコードが入ってくるのが遅いのか……?あきらめの悪い僕は、店の中を血まなこになって探し続けました。すると、どういうわけか普通のシングル盤コーナーに、その他大勢のレコードにまぎれて、1枚だけこっそり(?)隠れていたのを見つけたのです。ホッと胸を撫でおろしつつ、「この1枚を他の誰かに渡すわけにはいかない」と、一目散にレジへ直行。こうして、ノーランズは無事に僕のところへやってきました。

 この曲の魅力は、自然と体が揺れてくるポップで弾けるようなノリの良さ、姉妹による息の合った胸躍るコーラス、そして何と言っても、リード・ヴォーカルをとるバーナデット(ノーラン姉妹の5女)の歌声です。ちょっとハスキーでパワフルな、それでいて甘えるような、切ないような……、様々な表情を見せるその歌声は、思春期男子のツボに刺さりまくりでした。
そして、曲の素晴らしさはもちろんのこと、ノーラン姉妹のキュートさ(と言っても、僕にとっては、みんな年上のお姉さんでしたが……)にすっかり参ってしまった僕は、楽器をやるわけでもないのに、ポートレート目当てにノーランズの楽譜本まで買ってしまいました。

 今でも「ダンシング・シスター」をはじめ、ノーランズの曲を聴くと、使い古された表現ながらも「甘酸っぱい」としか言いようのない、胸の奥をキュンと締め付けられるような感覚を覚えます。
ノーランズなくして、僕の思春期は語れません。

―8曲目―

 ロックの魅力の一つは、どんなジャンルの音楽も取り込んでしまう雑食性にある、と何かの本で読んだ覚えがあります。たしかに、クラシック、ジャズ、ブルース、フォーク、カントリー、ソウル、ファンク、ラテン、フラメンコ、レゲエ、民族音楽、テクノ、ヒップホップ……、さらに日本の演歌や歌謡曲まで、何でもありの世界です。元々、ロックンロール自体が、ブルースなどの黒人音楽をルーツとしながら、色々な音楽と混ざり合って誕生・発展してきたことを考えれば、この節操の無さというか、懐の深さこそが、ロックの魅力の真髄ではないか、と僕も思うのです。

 無節操といえば、「ロック好き」を公言しながらも、気に入れば、どんなジャンルの音楽でも節操なく聴いてきた僕ですが、中3のとき、こんなトロピカルな感じの曲にもハマっていました。聴いてください。

 この曲は、全米/全英No.1の大ヒット曲「コール・ミー」に続き、これまた全米/全英No.1に輝いた大ヒット曲です。後に、この曲がカバー(原曲はジャマイカの「パラゴンズ」というレゲエ・バンド)だと知って驚きました。

 音楽に目覚めたばかりの頃は、とにかく知らないことばかりなので、それこそジャンルに関係なく、色々な音楽との新しい出会いがとても新鮮で、また、その出会いの中から、自分の気に入った音楽がどんどん増えていくのが嬉しくて仕方ありませんでした。
そんな時期に出会ったのが、この「夢みるNo.1」、そして、この曲が収められている「オートアメリカン」というアルバムでした。これが実にヴァラエティ豊かな内容で、当時も今も大好きなアルバムです。

 高校受験当日の朝、気分を盛り上げるために、このアルバムを聴いてから出かけたのを覚えています(実はもう1枚、出がけに聴いたアルバムがあるのですが、それはまた別の機会に)。

―9曲目―

 これまで、数えきれないほど沢山のバンドやミュージシャンの音楽と出会ってきましたが、初めて出会ったときに聴いた曲というのは、その時の印象・衝撃・興奮と共に、いつまでも忘れられない特別な曲として胸に残ります。

 ある大物バンドに初めて出会った思い出の曲です。聴いてください。

 この曲が発表された1980年の時点で、ザ・ローリング・ストーンズは、既にデビューから17年のキャリアを持つベテラン大物バンドでしたが、この曲が僕のストーンズ初体験でした。
まだ、ロックは若者の音楽で、「大人の言うことなんて信じるな(“Don’t trust over 30.”)」と言われていた時代、メンバーはとっくに30歳を過ぎたいわゆる大人で、存在が大きい分だけ、何かと風当たりも強かったようで……なんて、当時の状況など知らない僕は、ラジオでこの曲を初めて聴いたとき、単純に「何てクールでカッコいい曲なんだ」と、一発で惚れ込んでしまいました。特に、ミック・ジャガーがファルセットで歌う、妖しげでいやらしい雰囲気のヴォーカルにはゾクゾクしました。しかし、まだストーンズのこともよく知らない当時の僕は、最初、「ミック・ジャガーって、こんな変わった声をしてるんだ……」と、とんでもない勘違いをしていました……お恥ずかしい限りです。

 あれから40年以上経った現在も、現役を続けているストーンズがいて、しかも新譜を聴くことが出来るなんて、当時は想像すらしていなかったけれど、とても感慨深いです。
「ハックニー・ダイアモンズ」、むちゃくちゃカッコいいです。久々にしびれました。

―10曲目―

 僕の実家の居間に父親のステレオがありました。だからといって、特に音楽が大好きで、いつも音楽が流れている家、というわけでもありませんでした。ただ、ずっと気になっていたのが、レコード棚にずらっと並んでいた、父親のものと思われる数々のレコード。クラシックの作曲家別レコード・ボックス・シリーズや、映画好きの父親らしい「映画音楽大全集」みたいな感じ(正式な名前は覚えていませんが……)のレコード・ボックス・セット、そして、映画のサントラ盤が何枚か。
その中の、とあるサントラ盤を聴いたとき(父親にはちゃんとことわりを入れているのでご安心ください)に受けた鮮烈な印象が今でも忘れられません。聴いてください。

 恥ずかしながら、僕はこの映画自体をちゃんと観た記憶はないのですが、とにかくサントラの素晴らしさに圧倒されました。「男と女」「ある愛の歌」で有名なフランスの作曲家フランシス・レイが音楽を担当しています。美しく流れるような甘く哀愁を帯びたメロディー、シンプルで無駄のないアレンジ、一つひとつの音が持つ情感に訴えかける力、それぞれの曲が見せる豊かな表情……これらが相俟って、僕を別世界に連れて行ってくれる魔法のような音楽です。歌詞がフランス語というのも、ちょっと背伸びをしたい時期の中学生にとっては、洒落た大人の世界を感じさせてくれる魅力的なものでした。

 このサントラはどの曲も素晴らしく、メイン・テーマの「白い恋人たち」は説明不要なほどの超名曲ですが、初めて聴いた時の衝撃度合いを考えると、選曲にあたっては、今回お送りした「滑降のテーマ」以外の選択肢は考えられません。この曲には、ロックと同じような高揚感を覚えた僕でした。

 社会人になってから、サントラにはまる時期があったのですが、それを経てもなお、僕にとってサントラといえば、今でも、この「白い恋人たち」が極めつけの1枚です。
このレコードを持っていた父親に感謝。

ー第1回「目覚め」プレイリストー

No.曲名
Song Title
アーティスト
Artist
1ラブガン
Love Gun
キッス
Kiss
2マッド・ピエロ
Mad Pierrot
イエロー・マジック・オーケストラ
Yellow Magic Orchestra
3オネスティ
Honesty
ビリー・ジョエル
Billy Joel
4スモーク・オン・ザ・ウォーター
Smoke On The Water
ディープ・パープル
Deep Purple
5プレイ・ザ・ゲーム
Play The Game
クイーン
Queen
6ハロウィーン
Halloween
ジャパン
Japan
7ダンシング・シスター
I’m In The Mood For Dancing
ノーランズ
The Nolans
8夢みるNo.1
The Tide Is High
ブロンディ
Blondie
9エモーショナル・レスキュー
Emotional Rescue
ザ・ローリング・ストーンズ
The Rolling Stones
10滑降のテーマ(オーケストラ)~ オリジナル・サウンドトラック「白い恋人たち」
Descente ~ Original Soundtrack “13 Jours En France”
フランシス・レイ
Francis Lai

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