アンビバレント


 私は片仮名言葉があまり好きではない。と言っても、もともと英語は大好きなので、横文字にまったく抵抗はないのだが、会話の肝心な部分を、意味が分かるような分からないような、そんな片仮名言葉に埋め尽くされてしまうと、その話が上っ面だけの空虚なものに思えてしまい、途端に居心地が悪くなる。
それでも、人の話を聞くだけなら、何となく相槌を打ってごまかすこともできるが、自分から発する言葉としては、意味が分からない言葉では使いようがなく、知ったかぶりをして中途半端に使うようなこともしたくない……とは言え、何となく周りに合わせたり、カッコつけたりして、イメージだけで片仮名言葉を使ったことがないわけではない。しかし、そういう時はひどく自己嫌悪に陥るし、大抵の場合、後でしっぺ返しをくらうことになる。

 そんな私が、しばらく前にやっと覚えた片仮名言葉がある。それは「アンビバレント」。

 以前、あまりにも多くの人が当たり前のようにこの言葉を使っているので、「知らない自分はバカなのか?」と無性に気になり、意味を調べてみた。
 「アンビバレント」とは「相反する感情や考え方を同時に心に抱いている」様子を表す言葉、とあったが、自分の身近にある具体的なものとイメージが結びつかず、しばらくこの言葉を自分の中に落とし込むことができなかった。要は、恥ずかしながら、どうしても意味を覚えることができなかったのだ。

 そんなある日、ふとあることに気が付いた。

 片仮名言葉を好きになれない自分、周りに合わせて不本意ながらも片仮名言葉を覚えようとする自分、そして、反発を感じながらも片仮名言葉を使うのは何だかちょっとカッコいいと思ってしまう自分……そんな風に、自分の中でぐしゃぐしゃに渦巻いている矛盾と何とか折り合いをつけながら生きている自分の姿、これこそ正に「アンビバレント」ではないか!と。

 この時、ようやくこの言葉を自分のものにした、という実感を得ることが出来た。
これでもう、この言葉の意味を決して忘れることはないだろう。

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