第2回「中学時代」<2/2>


―6曲目―

 ラジオから流れてきたこの曲を初めて聴いたときから、その特徴的なリズムと印象的なフレーズが頭を離れません。「カッコいい曲だなぁ」と思いながらも、同時に、何か得体のしれないヤバいものを聴いてしまったような気がして、胸がざわつきました。聴いてください。

 この曲を聴いていると、いまだに「この曲って……明るいのか、暗いのか? 熱いのか、冷たいのか? 激しいのか、緩いのか? 笑っているのか、怒っているのか?……」その正体が見えず、不思議な気持ちになります。
 あと、この曲が収録されている「ホッター・ザン・ジュライ」<1980年発表>というアルバムのジャケットも忘れられません。スティーヴィー・ワンダーの顔がアップで描かれている普通のジャケットなのですが、強烈に記憶に残りました。何がそれほど強い印象を残したのか……イラストのタッチなのか、ジャケット全体の色使いなのか、よく分からないのですが、スティーヴィー・ワンダーと言われて真っ先に頭に浮かぶイメージは、いつもなぜかこのジャケットなのです。

 僕にとって、スティーヴィー・ワンダーという存在は、その名が示すとおり、言葉では説明出来ないような“ワンダー(Wonder: 不思議・驚異・奇跡)”に満ち溢れています。

―7曲目―

 70年代後半から80年代初頭にかけて、ディスコ、テクノ、パンク、ニューウェーブ等が流行し、時代に敏感な多くのミュ-ジシャン/バンド達が、こうした音楽の新しい動きを取り入れた曲を発表していました。

 この曲は、ある大物アーティストがそんな時代の新しい波を軽やかに乗りこなした名曲だと思います。初めて聴いたときからずっとお気に入りの曲です。聴いてください。

 いわずと知れた元ビートルズのポール・マッカートニーが、ソロ・アルバム「マッカートニーⅡ」に先駆けて発表したシングル「カミング・アップ」<1980年4月発売>をお送りしました。時代背景を抜きにして、いまの耳で聴いてもクールでイカした曲だと思います。

 ところで、昔から、この曲のサビの“Coming Up Like A Flower”というフレーズを聴くたびに、YMOの「ナイス・エイジ」(『増殖∞』<1980年6月発売>収録)という曲が頭に浮かんできます。曲中に“ニュース速報”を伝える女性ナレーションが入り、その最後に“Coming Up Like A Flower”という同じフレーズが登場するのです。何か関係があるのかな?と思っていたのですが、最近になって、色々と分かったことがありました。
 このナレーションは、1980年1月の来日時に大麻不法所持容疑で逮捕勾留されてしまったポール・マッカートニーに対するメッセージで、ナレーションに出てくる“22番”というのはポールが拘留された時に留置所内で呼ばれていた番号であるとか、ナレーションの声の主は、このエピソードのカギを握る元サディスティック・ミカ・バンド(高橋幸宏さんが在籍していた)の福井ミカさんで、彼女は当時のパートナーであったクリス・トーマス(ウィングスのアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」のプロデューサー)と共にウィングスに同行して来日、YMOの『増殖∞』のレコーディングに、クリスやポールの妻リンダを連れて遊びに行き、例のナレーションで飛び入り参加したとか、実はこの来日時にポール・マッカートニーとYMOはセッションを行う予定だったらしい……等々。こんな風に色々な話がつながっていたなんて、もう想像するだけでワクワクします。

 僕は、この「空想ラジオ」の準備として、記憶の曖昧な部分を補完するため、当時の雑誌等を読み返したり、インターネット検索などで必要最低限の事実確認を行うようにしているのですが、その中で、今回のような思いがけない発見があったりすると、もう嬉しくて、楽しくて、仕方がないのです。まだまだ僕の知らないことが、世の中には山のように溢れかえっているので、楽しみは尽きません。

―8曲目―

 そのバンドのことは雑誌等で名前は知っていましたが、ミュージックライフ増刊号『キッス大百科事典』の中で、ポール・スタンレーが好きなバンドとしてその名前を挙げていたこと、さらに、尊敬するヴォーカリストとしても、そのバンドのヴォーカリストの名前を挙げていたことで、俄然興味が湧いてきました。「ポール・スタンレーが憧れるなんて、一体どれだけすごいバンドなんだろう!?」と、想像するだけで胸がドキドキ・ワクワクしました。
 ようやくそのバンドのアルバムを手に入れて、初めて聴いたときのショックといったら……。果てしなく膨れ上がった勝手なイメージとあまりにもかけ離れていて、最初は「何これ!?」とガッカリしたのを覚えています。その問題のアルバムから1曲、聴いてください。

 レッド・ツェッペリンが1973年に発表した5枚目のアルバム「聖なる館」から「ダンシング・デイズ」をお送りしました。

 僕が、最初のアルバムとして「聖なる館」を買った理由は、ジャケットが気に入ったからでした。後に、このジャケットは「ヒプノシス」という有名なクリエイター集団が手掛けていたことを知り、また、僕の好きなレコード・ジャケットの多くが「ヒプノシス」によるものだと知り、俄然興味を持ち、作品集も買ったりして、相当影響を受けました。

 肝心の音楽の話に戻りますが、この時の僕には、まだレッド・ツェッペリンの良さは分かりませんでした。このアルバムの中で最初に気に入った曲が、今回お送りした、リフ主体のシンプルで比較的わかりやすい「ダンシング・デイズ」でした。その後、アルバム全曲を通して聴けるようになるまで、かなり時間がかかりました。
 一方、次に買った「レッド・ツェッペリンⅡ」が大当たりで、「これこれ!こういうのを聴きたかったんだよ!」と、一気にツェッペリン熱が高まり、他のアルバムも少しずつ買い揃えて聴きまくりました。その上で、いま「一番好きなレッド・ツェッペリンのアルバムは?」と聞かれたら、少し悩むかもしれませんが、僕は間違いなく「聖なる館」を挙げます。面白いものですね。

―9曲目―

 休みの日に家でラジオを聴いていたときのこと、スピーカーから飛び出してきたある曲に、僕は度肝を抜かれました。イントロのつんざくようなギター・リフ、それまで体験したことのない別次元のスピード感、緩急自在な曲の展開、激情に任せたような男臭く熱いヴォーカル、エネルギーが迸(ほとばし)る激しい演奏、荒々しい音の感触……と、すべてが僕のツボにはまりまくったのです。それまで聴いてきたハード・ロックとは明らかに違うその曲の衝撃はとてつもないものでした。聴いてください。

 この曲にすっかりやられてしまった僕は、急いで自転車を飛ばして、アルバムを買いにレコード屋さんへ向かいました。

 デビュー・アルバムの邦題は「鋼鉄の処女」<1980年発表>。思春期のウブな男子中学生には刺激的なそのタイトルといい、ジャケットに描かれた、バンドを象徴する「エディ」というキャラクターのイラスト(デレク・リッグスさんの作品)といい、何かいけないものに手を出してしまったような軽い背徳感にゾクゾクしました。もちろん、アルバム自体もすっかり気に入り、特に、当時の言い方ではA面アタマの「プローラー」と最後の「オペラの怪人」、そしてB面アタマの「トランシルヴァニア」と最後の「鋼鉄の処女」は悶絶ものでした。

 ところで、「オペラの怪人」の終わりに出てくる「torture me back at your lair」という雄叫びは、どうしてCD化の際に消されてしまったのでしょうか?初めてCDを聴いたときはズッコケました……。

―10曲目―

 その人は、何年かぶりに音楽活動を再開したばかりでした。当時の僕にとって、その人はまだ歴史上の人物でしかなかったので、これで、ようやくその人をリアルタイムで追いかけることが出来るはずでした……。聴いてください。

 1980年12月8日の夜、いつものように部屋でラジオを聞いていると、あるニュースが飛び込んできました。「ジョン・レノンが銃で撃たれて亡くなった」。

 当時の僕は、ようやくビートルズをちゃんと聴き始めたばかり。まだジョン・レノンという存在が、僕の中でハッキリした形をなしていない頃で、悲しいかな、そのニュースが世の中に与えた衝撃の大きさを、まったく同じように実感することは出来ませんでしたが、ラジオから聞こえてくる人々の声から、世の中のザワザワした感じ、重苦しい空気、計り知れない悲しみ、を感じ取ることは出来ました。

 この「スターティング・オーバー」という曲に満ち溢れている優しさ、力強さ、幸福感は、再び音楽の世界に戻り、新たに歩き始めることが出来た喜びから来ているんだろうな……などと想像してしまいます。そして、いくら残してくれた音楽は永遠だとは言っても、その先にあったはずの物語の続きを思うと、本当に残念でなりません。

ー第2回「中学時代」プレイリストー

No.曲名
Song Title
アーティスト
Artist
1ダンシング・クイーン
Dancing Queen
アバ
ABBA
2ラジオ・スターの悲劇
Video Killer The Radio Star
バグルス
The Buggles
3マイ・シャローナ
My Sharona
ザ・ナック
The Knack
4ザナドゥ
Xanadu
エレクトリック・ライト・オーケストラ &オリヴィア・ニュートン・ジョン
Electric Light Orchestra & Olivia Newton-John
5お願いだから
How Do I Make You
リンダ・ロンシュタット
Linda Ronstadt
6マスター・ブラスター
Master Blaster
スティーヴィー・ワンダー
Stevie Wonder
7カミング・アップ
Coming Up
ポール・マッカートニー
Paul McCartney
8ダンシング・デイズ
Dancing Days
レッド・ツェッペリン
Led Zeppelin
9プローラー
Prowler
アイアン・メイデン
Iron Maiden
10スターティング・オーヴァー
(Just Like) Starting Over
ジョン・レノン
John Lennon

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