第9回「高校時代 ①」
皆さん、こんにちは。「くのいち」ことクノテツヤです。
さて、今回は僕の高校時代の音楽遍歴をたどりたいと思います。
残念ながら、僕の高校生活には「青春の1ページ」と呼べるような、キラキラ輝く素敵な思い出がありません。それは、誰のせいでもなく、ほんの些細なことで被害妄想に取りつかれた僕が、ひとりで勝手にひねくれて、暗い高校生活を過ごしていた……ただそれだけの話ですが、そんな僕が、とことん腐りきらずに済んだのは、大好きな音楽のお陰でした。
高校時代は、中学時代に目覚めた洋楽、特にハードロックを中心にレコードを買いながら、ラジオを通じて、より幅広い音楽を聴くようになりました。時代はFMラジオ絶頂期。鈴木英人さんの魅力的なイラストが表紙を飾っていた雑誌「FMステーション」(1981年創刊。最盛期には驚異の売上50万部達成)を片手に、気になる音楽をエアチェックして聴き漁り、同時に、チャート番組や日付が変わったあとの深夜時間帯は、相変らずAMラジオのお世話になっていました。
高校に入学するや否や、勉強で落ちこぼれてしまった僕は、高1の途中で部活も辞め、学校帰りは、本屋~レコード屋~貸しレコード屋をハシゴする毎日。家に帰ってからも、勉強そっちのけでレコードとラジオばかり聴いていました。
今回は、そんな自堕落な高校生活の中で出会った、現在の自分につながる音楽の数々をお送りしたいと思います。 僕の中の黒歴史である高校時代も、音楽に限って言えば、自分の世界が大きく広がった貴重な3年間でした。
それでは、早速行ってみましょう。
―1曲目―
高校生といえば、大人の世界に憧れる時期です。夜中のラジオから流れてくるアダルトで洒落たムードの曲に夢中になったり、少し退廃的な香りがする耽美的な音楽を聴いて、そんな自分に酔いしれたり……そんな風に精一杯背伸びをしていた頃にハマった曲です。聴いてください。
♪ ロキシー・ミュージック 「夜に抱かれて」
“More Than This” by Roxy Music
この曲は、ロキシー・ミュージックが1982年に発表した最後のスタジオ・アルバム「アヴァロン」の冒頭を飾っている曲で、シングル・カットもされた彼らの代表曲のひとつです。
もちろん曲そのものも好きでしたが、当時は、こういう夜が似合う大人っぽい曲を聴いている自分にも酔っていましたね。幻想的な雰囲気に包まれた、想像力を掻き立てる美しいアルバム・ジャケットのイメージとも相まって、とても魅力的に響いてくる曲でした。
その後、本格的にロキシー・ミュージックを聴き出したのは30歳前後のこと。デビュー当時の彼らが、相当にアヴァンギャルドでぶっ飛んだバンドだったと知り、あらためて興味を持ったのがキッカケです。彼らのキャリアをデビュー時から辿り始め、再び「アヴァロン」に戻ってきた頃には、正真正銘のお気に入りバンドになっていました。
―2曲目―
僕が高校生の頃、アメリカでは第二次ブリティッシュ・インヴェイジョン(英国アーティストが全米チャートを席巻した一大ブーム)と呼ばれる現象が巻き起こっていました。その代表格であるこのイギリスのグループには、色々な意味で夢中になりました。聴いてください。
♪ デュラン・デュラン 「ハングリー・ライク・ザ・ウルフ」
“Hungry Like The Wolf” by Duran Duran
この曲は、デュラン・デュランが1982年に発表したセカンド・アルバム「リオ」からの先行シングルで、全米No.1という大ヒットを記録しました。
最初は、デビュー当時のナヨッとした感じが好きではなかったのですが、この曲で一気に印象が変わりました。とてもポップでキャッチーな曲だけど、どこかロックを感じさせる部分があって、素直に「この曲、カッコいいじゃん」と気に入ってしまいました。
ロックといえば、1995年にデュラン・デュランが、自らのルーツにある曲をカヴァーした「サンキュー」というアルバムを発表したとき、「このバンドの根っこには、やっぱりロックがあったんだ」と合点がいきました。あと、ハイ・スタンダードの横山健さんが、ソロ・アルバム「Songs Of The Living Dead」の中で「ハングリー・ライク・ザ・ウルフ」をカヴァーしていて、とても嬉しかったです。
デュラン・デュランに関しては、忘れられない思い出があります。極めて個人的な話ですが、ベースのジョン・テイラーがあまりにもカッコ良すぎて、当時、真剣に「こんな風になりたい」と憧れていたのです。背が低くて、容姿にも自信のない、コンプレックスの塊だった僕にとって、ジョン・テイラーは眩しすぎる存在でした。雑誌の切り抜きをクリアケースに入れて持ち歩き、「いつかジョン・テイラーみたいになる」ことを本気で夢想しては、写真を眺めていました。思春期の複雑な時期とはいえ、あの頃は精神的にかなりやばかったですね……。
―3曲目―
この人達も第二次ブリティッシュ・インヴェイジョンの代表的なグループです。
大ヒットしたデビュー曲には今ひとつ馴染めなかった僕ですが、この曲を聴いて、彼らに対する印象がガラリと変わりました。聴いてください。
♪ カルチャー・クラブ 「タイム(クロック・オブ・ザ・ハート)」
“Time (Clock Of The Heart)” by Culture Club
この曲は、1982年に発表されたカルチャー・クラブのセカンド・シングルです。実は、僕の記憶の中では、もう少し後に出たシングルという印象でした。デビュー曲「君は完璧さ(原題:”Do You Really Want To Hurt Me”)」の次のシングルは「君のためなら(原題:”I’ll Tumble 4 Ya”)」で、「タイム(クロック・オブ・ザ・ハート)」は、ファースト・アルバムとセカンド・アルバムの間あたりに出た曲だとずっと思い込んでいたのです。実際、この曲は、アナログ時代の日本版セカンド・アルバム「カラー・バイ・ナンバーズ」に収録されていたのです(ちなみに北米版ではファースト・アルバムに収録されていたとのことで……ややこしいですね)。
初めてこの曲を聴いたとき、胸に沁みるその切ないメロディに、「何ていい曲なんだろう」と素直に思いました。そして、「この人達の根っこにはソウルがあるんだな……」と感じました。僕のカルチャー・クラブを見る目をすっかり変えた、そんな印象深い1曲です。
―4曲目―
当時、深夜放送といえば「オールナイト・ニッポン」。特に楽しみだったのが、金曜日の笑福亭鶴光さんの番組の中にあった「この歌はこんな風にきこえる」というコーナー。そこで、僕の大好きだったこの曲が取り上げられたのですが、その内容があまりにも傑作(もちろん下ネタ……)で、それ以来、この曲は別の意味でも僕の頭から離れなくなってしまいました。聴いてください。
♪ デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ 「カモン・アイリーン」
“Come On Eileen” by Dexys Midnight Runners
この曲は、1982年に発表された彼らのセカンド・アルバム「女の泪はワザモンだ!!(原題:”Too-Rye-Ay”)」からシングル・カットされ、英米共にNo.1の大ヒットを記録しました。特にアメリカでは、当時向かうところ敵なしだったマイケル・ジャクソンから、わずか1週とは言えNo.1を奪う(「ビリー・ジーン」からNo.1を奪い取りました。但し、翌週には「今夜はビート・イット(原題:”Beat It”)」にNo.1を奪われてしまいます……)という快挙を成し遂げました。
音楽的には、ケルト民謡をルーツとした陽気で人懐っこいメロディに、ホロッと泣ける哀愁と優しさが滲む、そんな愛すべき1曲です。
……で、この曲がどんな風にきこえるのか?という肝心な部分ですが、モロに放送禁止用語が出てくるので、とても言葉には出来ません。申し訳ありませんが、知りたい方は、各人、ネット等で調べてみてください。多分、すぐに何かしらの情報がヒットすると思います。期待(?)させといてゴメンなさい。
―5曲目―
当時、大ヒットを連発していたヴォーカル・デュオがいます。彼らの曲はどれも大好きなのですが、この曲を初めて聴いたとき、それまでの彼らのヒット曲とは一線を画すようなクールな曲調に、たちまち魅了されました。聴いてください。
♪ ダリル・ホール&ジョン・オーツ 「アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット」
“I Can’t Go For That (No Can Do)” by Daryl Hall & John Oates
この曲は、1981年に発表された彼らのアルバム「プライベート・アイズ」からシングル・カットされ、前シングル「プライベート・アイズ」に引き続き全米No.1に輝いた大ヒット曲です。
音数の少ないシンプルな作り、夜の静謐さを感じさせるクールな音の感触、淡々とした展開の中でソウルを感じさせる抜群な歌のうまさ、これ以上、何を足しても、何を引いても成り立たない、完璧な世界観が構築されている極めつけの1曲です。
当時の僕にとって、天敵ともいえる無機質なリズムボックスによるドラム(?)・パターンですら、この曲にはこれ以外考えられない、と思わず納得してしまう、そんな非の打ちどころがない完璧なアレンジには脱帽です。
―6曲目―
僕がジャズに興味を持つキッカケのひとつとなった素敵なヴォーカル・グループがいます。その人達のポップで、モダンで、お洒落な音楽は、心がウキウキ踊り出すジャズの楽しさを教えてくれました。聴いてください。
♪ マンハッタン・トランスファー 「ボーイ・フロム・ニューヨーク・シティ」
“Boy From New York City” by The Manhattan Transfer
この曲は、1981年に発表されたアルバム「モダン・パラダイス(原題:”Mecca For Moderns”)」からシングル・カットされ、大ヒットしました。
僕がマンハッタン・トランスファーという存在を初めて意識したのは、ラジオで耳にしたこの曲がキッカケでした。曲自体が持つポップで小粋な魅力はもちろんのこと、歌うことの楽しさに満ち溢れたコーラスの素晴らしさに、すっかり聴き惚れてしまいました。
ところで、今回あらためて情報をチェックしていて、この曲が、ジ・アド・リブスというグループが60年代にヒットさせた曲のカヴァーだということを初めて知りました。これでまたひとつ、ルーツを掘り下げる楽しみが増えました。
―7曲目―
中学生のとき目にした、とあるアルバムのいかしたジャケットがずっと忘れられませんでした。当時もラジオで曲は聴いたことがあったと思いますが、いわゆるAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)と呼ばれる音楽を意識的に聴くようになったのは、ちょっと洒落っ気が出てくる高校生になってからのことです。聴いてください。
♪ ボズ・スキャッグス 「ジョジョ」
“Jojo” by Boz Scaggs
この曲は、1980年に発表されたアルバム「ミドルマン」の冒頭を飾る、これぞボズ・スキャッグス、AORの真骨頂とも言うべき名曲だと思うのですが、何と日本ではシングル「ブレイクダウン・デッド・アヘッド」のB面だったのですね……驚きです。
このアルバムのいかしたジャケットというのが、黒い網タイツをはいた女性の太ももを枕に、タバコをくゆらせているオールバックの中年男(ボズ・スキャッグス自身)という、当時、坊主頭の中学生だった僕には十分刺激的なものでした。裏ジャケットを見ると、この太ももの持ち主は、赤いレザーのレオタードに網タイツという煽情的な格好をした女性だと分かるのですが、比率として、やけに体が小さく感じられ、「子供か……?」と気になったのを覚えています。実際、この女性はどうやら十代だったらしく、当時物議を醸したとのことです。
中学時代からずっと気になっていたこのアルバム、ジャケ買いの誘惑に負けることなく、高校生になって、律儀にも、ちゃんと音楽的に興味を持ち始めてから、ようやく手に入れたのでした。
―8曲目―
歴史に残る数多くのダンス・クラシックを生み出した、僕の大好きなグループがいます。ディスコ、ソウル、R&B、ファンク、ジャズ、……ジャンルを超越した独自の音楽世界を繰り広げて、一世を風靡しました。大所帯のグループで、煌びやかなホーン・セクション、タイトでしなやかなリズム、美しいファルセット・ヴォーカル、華麗なコーラス、等々……、その魅力を挙げ出したらキリがありません。聴いてください。
♪ アース・ウィンド&ファイアー 「エヴォリューション・オレンジ」
“Evolution Orange” by Earth, Wind & Fire
この曲は、1981年に発表されたアルバム「天空の女神(原題:”Raise!”)」のA面ラスト(当時のアナログ盤)に収録されています。初めてこのアルバムを聴いたときに一番印象に残った曲で、それ以来、ずっとお気に入りの1曲です。
このアルバムから生まれた大ヒット・シングル「レッツ・グルーヴ」は、今やディスコ・ソングのスタンダードとなっている名曲で、僕がこのアルバムを買おうと思ったのも、「レッツ・グルーヴ」がキッカケでした。
そして、もう一つの重要なキッカケが、アルバム・ジャケットです。既にアルバム「太陽神(原題:”All ‘N All”)」「黙示録(原題:”I Am”)」でお馴染みとなっていた長岡秀星さんの手による素晴らしいイラストレーションが、この「天空の女神」のジャケットを飾っていたのです。その繊細なグラデーションによる表現は衝撃的で、一体どうやって描いているのか興味津々でした。やがて、エアブラシという技法を知り、憧れましたが、どうやら色々と道具を買い揃えなくてはいけないことが分かり、結局、手を出せないまま現在に至っています。
―9曲目―
まず、モノクロームの渋い写真できめたアルバム・ジャケット、その完璧なカッコ良さに降参です。そして、スピーカーから流れてきた音楽には、少し背伸びをしないと届きそうにない、大人のノスタルジックな世界が広がっていました。
最初は憧れから始まり、徐々に魅せられていき、気が付けばすっかり夢中になっていた、そんな思い出深いアルバムから1曲、聴いてください。
♪ ドナルド・フェイゲン 「ニュー・フロンティア」
“New Frontier” by Donald Fagen
この曲は、1982年にスティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンが発表した初のソロ・アルバム「ナイトフライ」のB面1曲目(当時のアナログ盤)に収録されています。ちなみに、当時はまだスティーリー・ダンの存在を知りませんでした。
僕が初めて聴いたドナルド・フェイゲンの曲は、「ナイトフライ」からのファースト・シングル「I.G.Y.」でした。大人っぽくてカッコいい曲だなとは思いながらも、少しひねくれた感じの不思議な曲という印象が強くて、正直、とっつきにくかったのですが、それに比べて、この「ニュー・フロンティア」はとても分かりやすく、小粋なポップ感に溢れる魅力的な曲で、一発で気に入りました。
「ニュー・フロンティア」目当てで手に入れたこの「ナイトフライ」というアルバムですが、最初からこのアルバムのすべてを好きになれたわけではありませんでした。それこそ、初めのうちは、ちょっと無理してカッコつけながら聴いていた部分もあったのですが、聴けば聴くほど、そして、年を重ねれば重ねるほど、その魅力がどんどん増してきて、今では、僕の人生に無くてはならない大切な1枚です。
―10曲目―
この曲を夜のラジオで初めて聴いたときに受けた衝撃が、今でも忘れられません。
イントロの最初のフレーズが鳴り響いた瞬間、夜の帳(とばり)の向こう側にある、まだ見たことのない、憧れと妄想が入り混じった大人の世界に引きずり込まれそうな危うい感覚を覚え、どうしていいか分からずドキドキしました。聴いてください。
♪ サザンオールスターズ 「EMANON」
“Emanon” by Southern All Stars
この曲は、1983年に発表されたサザン8枚目のアルバム「綺麗」と同時にリリースされたシングルで、サザンの私的ベスト10を選べと言われたら、絶対に外せない大好きな1曲です。
残念ながら、シングルはセールス的に芳しくなかったようですが、シングル両面の曲がどっちもアルバム(しかも同時発売)に入っていたら、相当コアなファンでもない限り、アルバムを買えばいいかな、なんて思ってしまいますよね(苦笑)。本当にそのせいなのか分かりませんが……。
まあ、セールスの話は脇に置いておくとして、とにかく、これがたまらないほど絶世の名曲で、アルバム・タイトルを見事に体現している、とんでもなく「綺麗」な1曲なのです。
こんなにも滑らかでしとやかなのに、こんなにも狂おしく心を揺さぶる曲は、他に見当たりません。
この曲に初めて出会ったときに僕が見ていた部屋の情景が、今でも目に浮かびます。
* * *
高校時代の音楽遍歴はまだまだ続きます。次回「高校時代 ②」をお楽しみに。
-今年最後の「空想ラジオ」、最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。
それでは、また来年お会いしましょう。See Ya!
ー第9回「高校時代 ①」プレイリストー
No. | 曲名 Song Title | アーティスト Artist |
---|---|---|
1 | 夜に抱かれて More Than This | ロキシー・ミュージック Roxy Music |
2 | ハングリー・ライク・ザ・ウルフ Hungry Like The Wolf | デュラン・デュラン Duran Duran |
3 | タイム(クロック・オブ・ザ・ハート) Time (Clock Of The Heart) | カルチャー・クラブ Culture Club |
4 | カモン・アイリーン Come On Eileen | デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ Dexys Midnight Runners |
5 | アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット I Can’t Go For That (No Can Do) | ダリル・ホール&ジョン・オーツ Daryl Hall & John Oates |
6 | ボーイ・フロム・ニューヨーク・シティ Boy From New York City | マンハッタン・トランスファー The Manhattan Transfer |
7 | ジョジョ Jojo | ボズ・スキャッグス Boz Scaggs |
8 | エヴォリューション・オレンジ Evolution Orange | アース・ウィンド&ファイアー Earth, Wind & Fire |
9 | ニュー・フロンティア New Frontier | ドナルド・フェイゲン Donald Fagen |
10 | EMANON Emanon | サザンオールスターズ Southern All Stars |
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