第17回「サラリーマン時代 <第1期 ②>」

※第1期:入社 ~ 清水時代(1988~1991)

 
 皆さん、こんにちは。「くのいち」ことクノテツヤです。

 さて、今回は引き続き、サラリーマン時代の第1期、Uターン就職した僕が地元清水で過ごした約3年の間に出会った思い出の曲の数々を紹介します。
 学生時代は洋楽ロック命だった僕ですが、この頃から、邦楽をちゃんと聴く機会が徐々に増えてきました。というわけで、今回お送りする曲は、すべて邦楽でいきたいと思います。

―1曲目―

 社会人になりたての頃、大学時代をふと思い出して、「またあの場所に帰りたいなぁ」なんて考えたりすることがありました。今でも当時のそんな気持ちが呼び起こされる、忘れられない1曲です。聴いてください。

 1988年に発表された桑田佳祐さん初のソロ・アルバム「Keisuke Kuwata」からお送りしました。
 当時、サザンオールスターズは、1985年に発表した2枚組大作アルバム「Kamakura」のツアーを最後に、しばらく活動休止期間に入っていました。メンバーは、各自ソロ活動を行っていて、桑田さんも、KUWATA BAND、スーパー・チンパンジーといったバンド形態での活動を経たのち、満を持して「桑田佳祐」個人の名前でソロ活動を開始しました。
 この時点で、僕はまだ本家サザンのアルバムを1枚も持っていなかったので、順番が逆になることを気にしながらも、この桑田さんのソロ・アルバムはどうしても買わずにはいられませんでした。
 第一印象は、「サザンのようでサザンでない、何だかとても大人っぽくて切ないアルバムだなぁ」というものでした。「桑田佳祐」という一人のミュージシャンが持つ様々な表情を、照れ隠しのための色はつけずに、素のままの色で描き出した作品集、そんな趣きを感じさせます。
聴くほどにじわじわと心に沁みてくる素晴らしいアルバムです。

―2曲目―

 さて、桑田さんときたらやっぱり、僕が小学生の頃に衝撃的なデビューを飾ったあのバンドに触れないわけにはいきません。好きな曲は沢山あったし、アルバムを貸しレコード屋さんで借りてきてチェックはしていましたが、基本的に洋楽命だった僕は、ずっとこのバンドとはつかず離れずの関係を続けていたのです。
ところが……ここにきて、とうとうこのバンドに手を出してしまいました。沼の始まりです。きっと時間の問題だったとは思いますが……。聴いてください。

 この曲は、1982年に発表されたシングル「Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)」のB面に入っていた曲です。オリジナル・アルバムには未収録で、アルバムとしては唯一、1989年に発売されたベスト・アルバム「すいか」に収録されていました。
僕は、その「すいか」で、初めてこの「シャッポ」という曲を聴いたのですが、それまでサザンに抱いていたイメージとはちょっと違った感じを受けました。そして、そのしなやかで、軽やかで、お洒落な曲調が、見事に僕のツボのど真ん中にはまってしまったのです。
 いきなり、曲のアタマでエレピが奏でる最初の3音だけで、完全にノックアウトされました。
また、この曲は、サザン流フュージョン・サウンドとでも呼ぶべきか、インストゥルメンタル・ナンバーに近い感触があって、特に間奏部分では、ラリー・カールトンを彷彿とさせる熱いギター・ソロに、夜の海にこぼれ落ちてキラキラ輝く月明かりのようなキーボード・ソロと、しびれるような演奏を堪能することができます。
 そして、この曲の最高にいかした瞬間が、最後の最後に待ち構えています。
エンディング部分における、「シャッ」 「…ポ」というスタッカート(音を短く切る)によるキメ3連発のあと、4発目の「シャッ」でそのまま曲を締め括るという、憎らしいほどのカッコ良さ。
 聴くたびに胸がときめく大好きな曲です。

―3曲目―

 サザンにはまったら、やはりここに辿り着くのは自然な流れなのでしょうか。聴いてください。

 1981年に発表された原由子さん初のソロ・アルバム「はらゆうこが語るひととき」からお送りしました。この曲は、原さんの2枚目のソロ・シングル「うさぎの唄」のB面にも収録されています。
 原さんは、サザンのメンバーの中でもいち早くソロ活動を始めていました。僕は完全に後追いで聴き始めたのですが、あっという間に虜(とりこ)になってしまいました。
 原さんのソロ・アルバムは、桑田さんが、作曲やプロデュースなどのバックアップを全面的に務めているので、洒落や遊びの要素も含めて、「桑田佳祐」印の素晴らしい作品であることは間違いないのですが、やはり、このアルバム最大の魅力は、本家サザンにおいても無くてはならない、聴く人を幸せな気持ちにする、「原由子」印のあの唯一無二の歌声にあります。
 この「Loving You」という曲を初めて聴いたときの不思議な感覚は、ちょっと忘れられません。
「乙女かよ……」と突っ込まれそうですが、優しく暖かな光に包まれて、まるで夢の中にでもいるような、そんな幸せな気分を感じたのです。原坊、恐るべし。

―4曲目―

 僕が彼女の音楽に出会ったのは、大学生のとき。
既にアルバムが3枚も出ていたので、まずは彼女のキャリアを遡るところからのスタートでした。
社会人になって、ようやく出会いの遅れを取り戻し、あらためてリアルタイムで追いかけ始めた頃の曲です。聴いてください。

 この曲は、1988年に発表された今井美樹さん4作目のシングルで、アルバムとしては、翌1989年にリリースされた初のベスト・アルバム「Ivory」に収録されていました。
 80年代のファッションリーダーとして、若い女性から絶大な人気を誇っていた今井美樹さんは、「PIECE OF MY WISH」や「PRIDE」の大ヒットもあり、多くの人にとっては、透き通るような歌声で、優しく伸びやかにバラードを歌い上げるシンガー、といったイメージが強いかと思います。
もちろん、しっとりと歌を聴かせてくれる今井美樹さんも素晴らしいのですが、こうした軽やかなテンポの曲で聴くことが出来る、ポップス・シンガーとしての彼女の歌声に、僕はたまらなく魅力を感じるのです。

―5曲目―

 社会人になり、新しい環境で色々な人と出会う中で、様々な刺激を受けました。そして、僕の音楽生活においても、沢山の新しい出会いがありました。
 テレビなどでこの人の存在は知っていたのですが、まさか自分がこの人にハマるとは思いもよりませんでした。聴いてください。

 この曲は、1974年に発表された泉谷しげるさんの4枚目のシングルで、同年に発表された5枚目のアルバム「黄金狂時代」の冒頭にも収録されている、初期の代表曲のひとつです。
 僕が泉谷しげるさんの音楽に出会ったキッカケは、会社の先輩に貸してもらった初期フォーライフ時代の「EARLY TIME」というベスト盤でした。
 それまで僕が泉谷しげるさんに対して持っていたイメージは、テレビで目にする「暴れん坊」キャラだとか、有名な「春夏秋冬」という曲を歌っているフォーク歌手、といった程度のものでしたが、このベスト盤を聴いて、それまでのイメージはすっかり一新されました。「泉谷しげる」とは「ロックの人」であると。
 アコースティック・ギターの音が印象として強く残るので、一聴すると確かにフォークっぽいのですが、ファンキーな「眠れない夜」やレゲエの「君の便りは南風」など、アルバムの曲を聴いている内に、曲の持つリズムは正に「ロック」のそれだと気が付いたのです。
もともと泉谷しげるさんはロック志向が強かったということですが、実際にバックを支えるミュージシャンの顔ぶれを見れば、これがロック以外の何物でもないことは一目瞭然です。
たとえば、「眠れない夜」のバックは、ドラマーのジョニー吉長さんが在籍していた「イエロー」が務めていたり、「君の便りは南風」のバックは「サディスティック・ミカ・バンド」だったり……。
極めつけは、長くライブ活動を共にした「ルーザー」で、村上“ポンタ”秀一さんのドラムに、元ルースターズの下山淳さんとCHABO(仲井戸麗市)さんのツインギターという、とんでもないメンツがバックを支えていたのです。
 ちなみに、僕にとって、泉谷しげるさんの音楽は、ガツンと衝撃を受けたといった類のものでなく、時間が経つにつれ、ボディブローのようにじわじわと効いてきて、気が付いたら、すっかりその魅力にハマっていた、そんな感じのものでした。これは、ずっと離れられなくなる典型的なパターンです。

―6曲目―

 女性だけのロック・バンドというものがまだ珍しかった時代にデビューしたこのガールズ・バンドは、ルックスの良さもあって、ちょっとアイドル的な見られ方もあったように思いますが、なめてもらっては困ります。これだけ肝の座ったロック・バンドは、そうそうお目に掛かれるものではありません。聴いてください。

 1988年に発表されたプリンセス プリンセス4作目のアルバム「LET’S GET CRAZY」からお送りしました。
 プリンセス プリンセスを聴き始めたのは、シングル「Diamonds」とカップリングの「M」という二つの絶対的な名曲との出会いがキッカケでしたが、その後もプリンセス プリンセスを追いかけたいと僕に思わせたのは、この「STAY THERE」という曲の存在です。
 いきなり胸をかき乱すような展開をみせるイントロ、溢れそうな想いを必死に抑え込むような「静」のパート、そこで聴こえるむせび泣くようなギターの響き、切なさ溢れまくりのメロディ展開、一気に世界が開けるようなサビのスケール感……最初から最後までゾクゾクしっ放しです。
 アルバムの中でこの曲に出会ったとき、「あっ、このバンドはきっと信じられる」と確信めいたものを感じました。そのときの直感は、見事大当たりでした。

―7曲目―

 僕が小さい頃からテレビで大活躍していた三人組の女性グループがいました。既にグループは解散していましたが、なぜか発作的に(こうした発作によく見舞われます……)彼女たちの歌が無性に聴きたくなり、たまらずベスト盤CDを買ってきました。そして、この曲のイントロを耳にした瞬間、体の奥に眠っていた何かが、ハッと目覚めたような感覚を覚えたのです。聴いてください。

 この曲は、1973年に発表されたキャンディーズの記念すべきデビュー・シングルです。
僕がまだ7歳の頃の曲ですが、この曲を鮮明に覚えていたのは、間違いなく「8時だよ!全員集合」のお陰です。調べてみると、キャンディーズは、デビュー前から「8時だよ!全員集合」にレギュラー出演していたそうです。なるほど、ドリフが大好きで、毎週欠かさず「8時だよ!全員集合」を見ていた僕は、知らない内に、キャンディーズをデビュー当時からずっと見続けていたというわけです。
 この「あなたに夢中」をはじめ、久しぶりに聴いたキャンディーズの歌の数々が、想像以上に自分の中にしっかり刻み込まれていたことに驚くと同時に、その色褪せない魅力にあらためて触れて、遅ればせながら、すっかりキャンディーズに夢中になってしまいました。

―8曲目―

 僕の大好きなザ・ドリフターズ。言わずと知れた、「音楽」と「笑い」で一世を風靡した伝説のコミック・バンド(ここでは、敢えて「バンド」と呼ばせてもらいます)です。そして、そのドリフが憧れた偉大なる先輩コミック・バンドがこの人達です。聴いてください。

 この曲は、1969年にリリースされた、ハナ肇とクレージーキャッツのシングル「あんた」のカップリング曲です……と言っても、僕がまだ3歳のときの曲で、リアルタイムで知っていたわけではありません。
 僕がこの曲を知ったのは、僕の大好きなTV番組「志村けんのだいじょうぶだぁ」がキッカケでした。
番組の中に、「だいじょうぶだぁ」ファミリーが、会社員・学生・子供・警察官・原始人……などの色々な格好をして「ウンジャラゲ」を歌って踊るコーナーがあり、毎回楽しみにしていました。
 この「ウンジャラゲ」という曲は、1988年に「志村けん&田代まさしとだいじょうぶだぁファミリー」のシングルとして発売され、オリコン最高20位というヒットを記録しました。
僕は最初、この曲は番組オリジナルの曲だと思っていたのですが、実はカバー曲だったことを後で知りました。そして、そのオリジナルが、僕の大好きなハナ肇とクレージーキャッツだと知り、何だかとても嬉しかったのを覚えています。
 ちなみに、僕がクレイジーキャッツを聴くようになったのは、同期(年齢は一個上)のM田さんというクレイジーキャッツ・フリークの影響です。M田さん、ありがとう。

―9曲目―

 当時大人気だった「いかすバンド天国」(1989~1990年)というTV番組で、初めてこのバンドを目撃したときの強烈な印象は、僕の目に焼き付いたまま、ずっと消えることはありませんでした。
その時はまだアマチュアだった彼らがメジャー・デビューを果たし、会社の音楽好きな先輩が、早速彼らのアルバムを貸してくれたのを覚えています。聴いてください。

 1990年に発表された人間椅子のメジャー・デビュー・アルバム「人間失格」からお送りしました。
 いきなり唸りをあげて襲い掛かってくる、イントロの尋常でないカッコ良さにまずぶっ飛びました。これはもうハードロック好きにはたまらない、一撃必殺・完全無欠の傑作リフですね。
 ところが、当時の僕はまだ日本語のロックに抵抗があって、この時は人間椅子に素直にハマることが出来ませんでした。とは言え、「針の山」の衝撃は凄まじく、その後も、ぼくの頭の中から「人間椅子」という存在が消えることは決してありませんでした。
それから約三十年後、僕の中で冬の眠りについていた「人間椅子」という名前の蕾は、一気に満開の花を咲かせたのでした。めでたし、めでたし。
 ところで、この「針の山」が人間椅子のオリジナル曲ではないと知ったときは驚きました。
オリジナルは、英国のバッジーというハード・ロック・バンドの「ブレッドファン」という曲で、彼らのサード・アルバム「友情(原題:Never Turn Your Back On A Friend)」に収録されています。
ちなみに、メタリカもこの曲をカバーしています(さすがの選曲センスです)。

―10曲目―

 入社して3年、公私ともに色々なことがあった僕に、一つの大きな転機がやってきます。
そして、そんな当時の僕とよく似た状況を歌っている、こんな曲に出会いました。聴いてください。

 この曲は、1989年にリリースされたユニコーン初のシングル曲です。
 実は、ユニコーンの音楽と出会ったキッカケが何だったか、すっかり忘れてしまいましたが、この「大迷惑」という曲のインパクトは忘れられないくらい大きなものでした。
混乱の渦に引きずり込む性急なビート、胸が高鳴るキャッチーなメロディが次々飛び出す贅沢な曲展開、品の良さとセンスを感じさせるアレンジ、思わずニヤリとさせる歌詞……、すべてが新鮮な驚きに満ちていました。
 この曲で歌われるのは、単身赴任者の悲哀。
そして、僕自身が、東京への出向赴任を言い渡されることになったのです。
 まだ、所帯を持っていたわけではありませんが、人にはそれぞれ事情があるもので、突然渡された「悪魔のプレゼント」は青天の霹靂で、頭の中は真っ白、まさに「大迷惑」な出来事でした。
出向が決まってからは、職場の飲み会でカラオケに行くと、ユニコーンの「大迷惑」を半ばやけくそで歌いまくっていました。
今でこそ「そんなこともあったなぁ」と、懐かしい思い出として笑って話すことも出来ますが、当時の僕にとっては、人生における一大事だったのです。
ちなみに、当初2年間の予定だった僕の「いわゆる一人旅」は、歌のように3年2か月では終わらず、結局、丸5年続いたのでした……。

* * *

 さて、次回から、僕の音楽遍歴は怒涛の東京編に突入です。お楽しみに。

-今回も最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。
それでは、またお会いしましょう。See Ya!

ー第17回「サラリーマン時代 <第1期 ②>」プレイリストー

No.曲名
Song Title
アーティスト
Artist
1遠い街角 (The wanderin’ street)
Tohi Machikado (The wanderin’ street)
桑田佳祐
Keisuke Kuwata
2シャッポ
Shappo
サザンオールスターズ
Southern All Stars
3Loving You
Loving You
原由子
Yuko Hara
4彼女と TIP ON DUO
Kanojo To Tip On Duo
今井美樹
Miki Imai
5眠れない夜
Nemurenai Yoru
泉谷しげる
Shigeru Izumiya
6STAY THERE
Stay There
プリンセス プリンセス
Princess Princess
7あなたに夢中
Anata Ni Muchu
キャンディーズ
Candies
8ウンジャラゲ
Unjarage
ハナ肇とクレイジーキャッツ
Hajime Hana & Crazy Cats
9針の山
Hari No Yama
人間椅子
Ningen-Isu
10大迷惑
Daimeiwaku
ユニコーン
Unicorn

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