第7回「邦楽」<1/2>


 皆さん、こんにちは。「くのいち」ことクノテツヤです。

 さて、今回は最初から最後まで、丸ごと全部日本の曲でいきたいと思います。

 中2で洋楽ロックに目覚めるずっと前からテレビやラジオで耳にしてきた日本の歌。そこから知らず知らずのうちに受けていた影響を自覚し始めたのは、すっかり大人になってからのことでした。
 僕が小・中学生の頃はまだ「Jポップ」というカテゴリーもなく、「洋楽」に対して「邦楽」という大きな括りの中に、演歌、歌謡曲、ポップス、フォーク、ロック、ニューミュージック……と呼ばれる様々なタイプの音楽が溢れていました。そんな時代に僕が出会い影響を受けた、自分の音楽遍歴を語る上で欠かせない日本の曲の数々をお送りします。

―1曲目―

 中学時代の同級生に、背が高くて、頭が良くて、ちょっとクセ者の友達がいました。彼はしょっちゅう僕にプロレス技を仕掛けてきて、体が小さい僕は、抵抗むなしくいつもやられっ放しで悔しい思いをしていました。まあ、そんなことはどうでもいいのですが、その少し厄介な友達は、あるミュージシャンの大ファンで、いまで言うところの「推し活」よろしく、周りの友達にそのミュージシャンの良さをいつも熱く語っていました。実は、そんな彼に感化される前から、僕はそのミュージシャンのことを知っていて、ずっとお気に入りだった曲がありました。聴いてください。

 この曲は1977年に発表された、さだまさしさんの3枚目のシングルで、同年発表のアルバム「風見鶏」にも収録されています。
 僕が初めてこの曲をラジオで聴いたのは小学生のとき。当時は、まだ歌詞に出てくるような男女の心の機微など分かるはずもなく、それでも何か胸にグッとくるものがあり、この曲のことが忘れられなくなってしまいました。それ以来、何でもない時に、ふとこの曲が頭に浮かんできたりするのです。
 ただ、本当に申し訳なかったと思うのは、当時、「アコギ」=「フォーク」=「暗い」・「軟弱」というヘンな先入観もあり(ゴメンなさい……)、表向きはあまり興味のないフリをして距離を置いていたのですが、さだまさしさんの歌は密かに好きでした。

―2曲目―

 僕が小学生高学年の頃、ある新人シンガー・ソングライターがデビューしました。いきなりの3ヶ月連続シングル発表という異例のデビューを飾り、しかも、そのすべてを同時にチャートインさせて、大きな話題になっていました。
どの曲も大好きですが、中でもこの曲は、夜中に初めてラジオで聴いたときの、胸をギュッと締め付けられるような感じが今でも忘れられない、とても印象深い1曲です。聴いてください。

 この曲は1977年に発表された原田真二さんのデビュー・シングルです。
「てぃーんず ぶるーす」に続いて発表された「キャンディ」「シャドー・ボクサー」と、同時に大ヒットを記録したこのシングル3曲は、まったくタイプは違うのに、それぞれがとても新鮮な魅力に溢れていて、それまで聴いてきた歌謡曲とは明らかに違う何かを感じさせてくれました。音楽的なことはよく分かりませんでしたが、子供心にも「とんでもない天才が現れたものだ……」と思っていました。
 続く4枚目のシングル「タイム・トラベル」も、前3作とはまったく違う世界観を持った、これまたとんでもなく素晴らしい曲でした。このとき、原田真二さんはまだ19歳だったというから驚きです。

―3曲目―

 小・中学生の頃、多くの男子にとっての憧れの的は、山口百恵、桜田淳子、榊原郁恵、石野真子……、グループならキャンディーズ、ピンクレディー……といった女性アイドル歌手たちでした。
ところが、中学時代の同級生に、そうした可愛いらしいアイドルには目もくれず、ある女性シンガーがタイプだと言う激シブの男子がいました。僕もその人の曲は大好きでしたが……。聴いてください。

 この曲は5枚目(プロデビュー後3枚目)のシングルとして1978年に発表され、大ヒットを記録しました。曲の良さに加え、八神純子さんのどこまでも美しく伸びやかに駆け上がるハイトーン・ヴォーカルは絶大なインパクトがありました。
 この曲の他にも、プロデビュー曲の「思い出は美しすぎて」をはじめ、「パープル・タウン ~You Oughta Know By Now」「Mr.ブルー ~私の地球~」と、今も心に残る数々の名曲を産み出してきた八神純子さんは、アメリカに拠点を移した現在も、現役で活躍されています。先日、彼女が歌う姿を久しぶりにテレビで拝見したのですが、あの頃と変わらない伸びやかでパワフルな歌声を聴かせてくれていました。

 あの時代、ニューミュージックという言葉をよく耳にしました。ニューミュージックの厳密な定義はよく分かりませんが、それまでの歌謡曲とは一線を画した、新しい世代による、新しい世代のための、新しい音楽を「ニューミュージック」と呼んでいたのだと思います。
そこには、シンガー・ソングライターと呼ばれる、自ら作った音楽を自ら表現する新しいタイプのミュージシャンの存在がありました。また、ソロ歌手として歌に専念したり、自らもピアノやギター等の楽器を演奏したり、バンドを組んで演奏も含めたすべてを自らの手で行ったりと、それぞれの音楽観・世界観に従って、その活動形態も様々でした。
 当時はまだ子供だった僕ですが、八神純子さんをはじめ、この頃登場した多くの新しい音楽やミュージシャンにドキドキ・ワクワクさせられっ放しで、子供なりに新しい時代の空気を何となく感じ取っていたように思います。

―4曲目―

 僕が中学生のとき、地元の映画館で観た忘れられないアニメ映画があります。エンドロールと共に流れてきた主題歌を耳にした途端、ボロボロと涙が止めどなくこぼれ落ちてきて、周りに悟られないよう必死でごまかしていたことを今でも覚えています。聴いてください。

 この曲は1979年に発表された彼らの11枚目のシングルで、松本零士さんの名作SF漫画「銀河鉄道999」の劇場版アニメ映画の主題歌です。
 ゴダイゴとの出会いは、新鮮な驚きに満ちたものでした。「モンキー・マジック」が全編英語詞だったり、メンバーに外国人がいたり(ドラムとベースのリズム隊)、バンド全体の雰囲気がやけに落ち着き払っていたり……と、ちょっと他とは違う、ただならぬ存在感を漂わせた不思議なバンドでした。
 余談ですが、英語が好きだった僕は、タケカワユキヒデさんにちょっとした憧れがあり、大学受験のとき、タケカワさんの出身校である東京外国語大学の受験を本気で考えていました。結局、レベルが高すぎて断念したのですが……。

―5曲目―

 僕が小・中学生の頃といえば、テレビは歌番組全盛の時代で、本当にたくさんの歌番組がありました。やはり一番思い出深い番組といえば「ザ・ベストテン」で、毎週欠かさず夢中になって見ていました。中でも、いまだに語り継がれている伝説的な場面をリアルタイムで目撃した、あのときのことは忘れられません。
 それにしても、あの日「今週のスポットライト」でお茶の間に登場した自称「目立ちたがりの芸人」が、その後、日本の音楽シーンを大きく変えることになろうとは……その時は夢にも思いませんでした。聴いてください。

 この曲は1979年に発表されたサザン4作目のシングルです。本来、話の流れからいくと「今週のスポットライト」で紹介されたデビュー曲「勝手にシンドバッド」をお送りすべきところですが、完全に個人的な思い入れ優先で、この曲を選ばせてもらいました……悪しからず。
 前シングルの「いとしのエリー」は、桑田佳祐さんのメロディ・メイカーとしての才能を世に知らしめた名曲バラッドでしたが、この「思い過ごしも恋のうち」では、その天才メロディー・メイカーぶりが大爆発しています。
 いきなりイントロから繰り出されるサビの必殺フレーズに心をグッとつかまれます。そして、歌に入ってからも、まるで嵐のような怒涛の展開を見せます。胸を焦がすメロディーが次から次へと押し寄せてきてクラクラしているところに、原坊のあの罪つくりな歌声が入ってきてハートを揺さぶってくる、と同時に、サビに向けていよいよメロディーは必殺度合いを高めていき、はやる気持ちは極めつけの煌めく3連フレーズでさらに勢いを増して、ついにサビへと雪崩れ込んでいく……その瞬間、背筋がゾクゾクッと震えるような感覚が一気に体中を駆け巡り、全身が炭酸みたいに泡立つような感覚を覚えるのです。
いつ、何度聴いても、最高にしびれさせてくれる1曲です。

<つづく>