Remember
今から33年前の1991年11月24日、不世出のロック・ヴォーカリスト、クイーンのフレディ・マーキュリー(享年45歳)が亡くなった。そして、その陰に隠れて、あまり語られないのが残念だが、奇しくも同じ1991年11月24日、キッスの2代目ドラマーであるエリック・カー(享年41歳)が亡くなった。
どちらも、僕が十代の頃に出会い、夢中になり、ずっと大好きなバンドのメンバーなので、あまりにも若すぎる二人の訃報はショックだったけれども、意外なほど、その現実を冷静に受け止めている自分がいた。そのとき胸に込み上げてきた感情は、「悲しい」というよりも「寂しい」だった。
フレディ・マーキュリーについては、放っておいても世界中で多くの人がこぞって思い出を語り合っているだろうから、僕はエリック・カーについて少し語りたいと思う。
エリック・カーは、オリジナル・ドラマーであるピーター・クリスの脱退後、1980年にキッスの2代目ドラマーの座を射止め、翌1981年発表の「魔界大決戦(原題:”Music From The Elder”)」でレコード・デビューを果たした。キッスが迷走していた厳しい時代にメンバーとなったエリック・カーは、低迷期を経たキッスがついにメイクを落とし、音楽的によりハードでヘヴィな方向に進むことで、再び音楽シーンでの勢いを盛り返していく、そんな激動の10年間において、キッスの屋台骨をそのパワフルなドラム・サウンドで支え続けた。
キッス加入当時(=メイクアップ時代)のエリック・カーのキャラクターはキツネ。実際のメイクは「キッス・キラーズ」や「暗黒の神話(原題:”Creatures Of The Night”)」のアルバム・ジャケットで確認できるが、シンプルでなかなかカッコいいメイクだった。素顔が童顔で可愛らしいエリックは、メイクをしても愛嬌があり、バンド全体のキャラクター・バランスもばっちりで、キッスに違和感なく溶け込んでいた。
ジョン・ボーナムに憧れていたエリック・カーのパワフルなプレイ・スタイルは、その後のキッスが歩むハード・ロック/ヘヴィ・メタル路線にうってつけで、ヴィジュアル的にも、ツーバス(3つ以上並べているときも……)に加えて、周りを取り囲むように大量のタムをずらりと並べ、しまいにはロート・タムやシモンズ・ドラムまで組み込んだ、まるで要塞のようなド迫力の巨大ドラム・セットは圧巻だった。
また、エリックは、キッスのメンバーに必要な「歌える」という条件もしっかりクリアしていて、ライヴでは、かつてピーターが歌っていた「ブラック・ダイアモンド」や、アルバムではジーン・シモンズが歌っている「青い暴走(原題:”Young And Wasted”)」でヴォーカルを披露、少しハスキーでワイルドな歌声が見事にハマっていた。スタジオ盤でも、アルバム「ホット・イン・ザ・シェイド」の「リトル・シーザー」という曲で初めてのリード・ヴォーカルを披露している。
さらに、キッスではあまり披露する機会がなかったけれど、エリックは曲を書くこともできた。先ほど紹介した「リトル・シーザー」はエリック・カー本人の自作曲だし、加入直後のアルバム「魔界大決戦」においても、既に「薔薇の紋章の下(もと)(原題:”Under The Rose”)」、「激烈!大脱走(原題:”Escape From The Island”)」をメンバー達と共作、作曲クレジットに名前が記されている。以降のアルバムでも、「地獄の饗宴(原題:”All Hell’s Breakin’ Loose”)」、「アンダー・ザ・ガン」、「ノー・ノ―・ノー」といった曲をメンバー達と共作している。
意外なところでは、カナダ出身のシンガー・ソングライター ブライアン・アダムスの3枚目のアルバム「カッツ・ライク・ア・ナイフ」(1983年発表)に収録されている「ドント・リーヴ・ミー・ロンリー」という曲を、エリック・カーはブライアン・アダムス、ジム・ヴァランスと共作している。この曲、元々はキッス用に書かれた曲らしい……。<「暗黒の神話 40周年記念デラックス・エディション」のディスク2:デモ、レア音源&アウトテイク集で「ドント・リーヴ・ミー・ロンリー(テイク8 – ドラムス&ギター・インストゥルメンタル)」を聴くことができる。エリックが叩くと、やっぱりキッスらしく聴こえるから不思議だ。>
余談ですが、「キッス・キラーズ」や「暗黒の神話」(いずれも1982年発表)に収録されている曲のクレジットに、ブライアン・アダムスの名前を見つけることができます。
このように、ドラムだけでなく、歌や作曲における音楽的才能にも恵まれていたエリック・カー。キュートで人懐っこい顔と小柄な体でド派手にドラムを叩きまくる彼の姿を、いつも惚れ惚れしながら見ていました。アニマライズ・ツアーのライヴ・ビデオ「アニマライズ・ライヴ(原題:”Animalize – Live Uncensored”)」は特にお気に入りでした……なんてことを言っていると、また観たくなってしまう。
エリック・カーのあの勇ましい姿を見ていると、何だか体の奥底から「力」が湧いてくるのです。
―ということで、今日はエリック・カーを偲んで、「魔界大決戦」以降のキッスを聴きながら一日過ごすことにしよう(もちろん、あとでクイーンも聴くけど……)。
■■