第22回「インスト」

皆さん、こんにちは。「くのいち」ことクノテツヤです。
さて、今回は、よく「インスト」と略して呼ぶことの多いインストゥルメンタル・ナンバー、つまり歌の入っていない、楽器(インストゥルメント)のみの演奏による曲を特集したいと思います。
いち時期、僕はインストゥルメンタル・ナンバーに苦手意識を持っていました。というのは、もちろん曲によりますが、歌が無いとどうも集中力が続かず、長尺の曲や静かな曲、メロディの起伏がない曲だと途中で眠くなってしまうのです。「ちゃんと聴こう」と思っているのに、気が付いたら夢の中。そのたびに「あ~、またやってしまった」「こんな自分には音楽を聴く資格がないのでは……」と自己嫌悪に陥り、そんなことを繰り返す内、インストゥルメンタル・ナンバーに対して「最後までちゃんと聴けるのだろうか……?」と不安が先に立ち、身構えるようになってしまったのです。
しかし、そんな僕にも、お気に入りのインストゥルメンタル・ナンバーというものはあって、ずっと僕と「インスト」をつなぎとめていてくれました。今回は、そんな思い出の曲の数々をお送りします。
ちなみに、今ではすっかり苦手意識を克服して、「歌モノ」「インスト」の区別なく、音楽を楽しんでいます。
それでは、早速いってみましょう。
―1曲目―
まずは、僕の大好きなこのバンドから。聴いてください。
♪ キッス「キッス愛のテーマ」
“Love Theme From Kiss” by Kiss
1974年に発表されたキッスの記念すべきデビュー・アルバム「地獄からの使者~キッス・ファースト(原題:Kiss)」からお送りしました。
この曲は、特にキッスを代表するような名曲というわけではなく、キッスお得意のノリノリなロックン・ロール・ナンバーでもありません。地味と言えば地味な曲ですが、個人的にとても印象深い、お気に入りの1曲です。
ルーズな感じのギター・フレーズに、ベースがブンブン唸りながら絡みついてくる、バンドの自己紹介を兼ねたような、タイトル通りの「テーマ・ソング」といった感じの曲で、ライヴのオープニングSEに持ってこいの1曲だと思います。
ちなみに、この「空想ラジオ」のテーマ・ソングは、第一回で紹介した、パイロットの「北緯55度・西経3度」という曲ですが、最初の内は、この「キッス愛のテーマ」も候補曲の一つでした。
―2曲目―
これは、僕が生まれて初めて夢中になった、今でも大好きなインストゥルメンタル・ナンバーです。聴いてください。
♪ ビリー・ジョエル「ルート・ビア・ラグ」
“Root Beer Rag” by Billy Joel
1974年に発表されたビリー・ジョエル3作目のアルバム「ストリート・ライフ・セレナーデ」からお送りしました。
僕は、ビリー・ジョエルが1979年に発表したシングル「オネスティ」のB面曲として、初めてこの曲と出会いました。
心に沁みるバラードの名曲「オネスティ」とは全く違うタイプの曲で、速く軽快なテンポにのせて、3分にも満たない短い時間の中で、様々な表情を見せながら、次々と場面が展開していきます。そして、何と言っても“ピアノ・マン”ことビリー・ジョエルのご機嫌なラグタイム・スタイルのピアノを存分に堪能出来る、小粋で、魅力あふれる素敵な曲です。
いつ、何度聴いても、心が躍り出して、ウキウキ・ワクワクが止まりません。
―3曲目―
お次は、「ロックのインストゥルメンタル・ナンバーはこうあるべし」と言いたくなるような、圧倒的なカッコ良さを誇る1曲です。聴いてください。
♪ コージー・パウエル「ホット・ロック」
“Hot Rock” by Cozy Powell
1981年に発表されたコージー・パウエルのソロ2作目となるアルバム「サンダーストーム(原題:Tilt)」からお送りしました。
この曲でギターを弾いているのは、かつてのバンド仲間だった盟友ジェフ・ベック。
コージー・パウエルが在籍していたジェフ・ベック・グループでは、ファンキーな音楽を聴かせていましたが、ここでは、聴いた瞬間に「これ!これ!俺が聴きたかったのはこういうの!」と思わず叫びたくなるような、必殺フレーズ満載のロック・ナンバーを聴かせてくれています。
ところで、この「サンダーストーム」というアルバムですが、収録されている8曲の内、インストゥルメンタル・ナンバー(ジェフ・ベックとの2曲、そしてゲイリー・ムーアとの2曲)の4曲があまりにも素晴らしすぎて、「いっそのこと、全曲インストにしてくれたら良かったのに……」とずっと思ってきました。そうしたらどんな凄いアルバムになっていたことか、と想像するだけでワクワクしてきます。
―4曲目―
昔、よく聴いていたラジオ番組のテーマ・ソングに使われていた曲です。
いつも「カッコいい曲だな」と思いながら聴いていたのですが、誰の何という曲か分からないまま、ずっと頭の中に残っていました。聴いてください。
♪ J・ガイルズ・バンド「ワマー・ジャマ―」
“Whammer Jammer” by The J. Geils Band
1971年に発表されたJ・ガイルズ・バンド2作目のアルバム「モーニング・アフター」からお送りしました。
J・ガイルズ・バンドと言うと、リアルタイムで聴いた大ヒット曲「堕ちた天使(原題:Centerfold)」の印象が強すぎて、この曲もJ・ガイルズ・バンドの曲だと知った時はとても驚きました。
全編、ブルース・ハープ奏者マジック・ディックのご機嫌なハーモニカを十二分に味わうことが出来る、いかしたインストゥルメンタル・ナンバーです。
ザ・クロマニヨンズのヒロトさん曰く、「この曲には、ブルース・ハープのあらゆるスタイルが詰まっている」とのこと。僕は、学校での音楽の授業以来、ハーモニカ(ブルース・ハープ)に接する機会もなく、奏法云々の話はよく分からないのですが、そんな僕にも、この曲のハーモニカのカッコ良さはビシビシ伝わってきます。
あらためて調べたところ、この「ワマー・ジャマ―」は、僕が学生時代によく聴いていたFEN(Far East Network『極東放送網』:現AFN)のラジオ番組で、「メアリー・ターナー・ショウ」のエンディング・テーマに使われていたようです。
また、今回調べる中で、同じくFENで番組を持っていた「チャーリー・ツナ」という覚えのある懐かしいDJの名前を目にして、英語の勉強とイカした音楽を目当てに、よくFENを聴いていたあの頃の気分が一気に蘇ってきました。
―5曲目―
初めて聴いたとき、タイトルから思い描いていたイメージとあまりにもかけ離れた曲調に驚いたのを覚えています。出会ったときからずっとお気に入りの、忘れられない1曲です。聴いてください。
♪ サザンオールスターズ「ボディ・スペシャルⅠ」
“Body Special I” by Southern All Stars
この曲は、1983年に発表されたサザン17作目のシングル「ボディ・スペシャルⅡ」のB面曲ですが、僕は、1989年に発表されたベスト・アルバム「すいか」で、この曲の存在を初めて知りました。
聴いていると、暖かく柔らかな光に包まれているような気分になる、優しくほのぼのとした、浮遊感のあるメロディーが印象に残る素敵な曲です。
お聴きいただいた通り、この曲にはコーラスが入っています。ちゃんと作詞のクレジット(作詞・作曲:原由子さん)もあるので、純粋なインストゥルメンタル・ナンバーとは言えないかもしれませんが、圧倒的に「インスト」の印象が強いのと、お気に入りのこの曲を何とかして紹介したいという強い想いから、今回プレイリストに入れさせてもらいました。
反則(?)スレスレですが、どうかご容赦を。
ところで、サザンは、この曲に限らず、アルバムに収録されていないシングルB面曲にも魅力的な曲が多く、個人的にサザンの裏ベスト3と呼んでいる曲があります。
ひとつは、以前お送りした「シャッポ」(「Ya Ya ~あの時代を忘れない」のB面曲)、もうひとつが、この「ボディ・スペシャルⅠ」(「ボディ・スペシャルⅡ」のB面曲)、そして、残る1曲は「C……」のB……の「I……」。いつか必ずかけようと思っているので、その時までお楽しみに。
―6曲目―
この曲を初めて聴いた時、めくるめく曲の展開にドキドキしっ放しだったのを覚えています。聴いてください。
♪ フランク・ザッパ「ピーチズ・エン・レガリア」
“Peaches En Regalia” by Frank Zappa
1969年に発表されたフランク・ザッパのソロ名義としては2作目となるアルバム「ホット・ラッツ」からお送りしました。
この「ホット・ラッツ」というアルバムを初めて聴いたとき、いきなり流れてきた1曲目のこの「ピーチズ・エン・レガリア」という曲に強い衝撃を受けました。
それまで聴いたことのない、国籍もジャンルも超えてしまったかのような不思議な音楽の世界に強烈な印象を受けたのと同時に、その何とも形容しがたい音楽の魅力に一気に引き込まれてしまいました。
この曲は、フランク・ザッパの曲の中ではかなり人気の高い曲で、ライヴでも定番曲のひとつとして頻繁に演奏されていたようです。
一度、生でフランク・ザッパを観てみたかったと思うのですが、どの時代のフランク・ザッパを観るべきかというと、これまた悩ましいところです。
―7曲目―
まだ僕が十代半ばの頃、この曲のイントロがスピーカーから流れてくると、いつもの部屋が一瞬にして別世界に姿を変えるのでした。そして、ちょっと大人っぽい気分に浸りながら、夕方のひと時を過ごすのでした。聴いてください。
♪ スタッフ「いとしの貴女」
“My Sweetness” by Stuff
1976年に発表されたスタッフのデビュー・アルバム「スタッフ!!」からお送りしました。
僕の中学・高校時代がドンピシャで重なる1977~1985年、NHK-FMで平日の夕方16~18時に放送されていた「軽音楽をあなたに」という音楽番組のテーマ曲として、この「いとしの貴女」が使われていたのですが、誰の何という曲か分からないまま、曲の鮮烈な印象だけがずっと記憶に残っていました。
当時、他にも、誰の何という曲か分からないけど、耳にこびりついて離れない、そんな忘れられないラジオ番組のテーマ曲が沢山ありました。
この「いとしの貴女」に再会したのは、社会人になってしばらく経った頃、ドラマーのスティーヴ・ガッドを目当てに買ってきたアルバム「スタッフ!!」を聴いたときのことです。
1曲目が終わって、静かに2曲目が始まり、あの耳慣れた懐かしいイントロが流れてきた瞬間、予期せぬ驚きとようやく巡り逢えた喜び、そして、一気に蘇ってきたあの頃の感覚に、つい感極まってしまいました。
この曲は、いつでも僕をあの頃に連れ戻してくれる、そんな魔法のような曲のひとつです。
―8曲目―
中学生の頃の僕にとって、全編インストゥルメンタル・ナンバーのアルバムを買うというのは、なかなかの冒険でした。そんな風にして買ったアルバムのお気に入りの1曲です。聴いてください。
♪ ジェフ・ベック「エル・ベッコ」
“El Becko” by Jeff Beck
1980年に発表されたジェフ・ベックのソロ名義による3作目のアルバム「ゼア・アンド・バック」からお送りしました。このアルバムは、曲によって「静」と「動」がハッキリ分かれていて、最初の内は、曲のお気に入り具合もハッキリ分かれていました。そんなアルバムの中で、この「エル・ベッコ」のカッコ良さには、初めて聴いた時からぞっこんでした。
アナログではB面1曲目に収録されていたこの曲は、イントロのドラマチックなピアノが、これから何か凄いことが始まるのを予感させ、たまらなくゾクゾクします。そこに、高らかに響き渡るジェフ・ベックのギター。その高揚感は悶絶モノで、天にも昇るような気分を味わっていると、今度は一転、疾走感と躍動感あふれる演奏が繰り広げられ、しびれまくりの約4分間はアッという間に過ぎていきます。
ところで、この「エル・ベッコ」というタイトルは、スペイン語のような言葉の響きがとてもカッコ良くて、この曲が持つ情熱と哀愁を帯びた雰囲気をより一層盛り上げてくれるのですが、いくら調べてみても、何を意味しているのかよく分かりません。
スペイン語における男性冠詞の“el”に、男性名詞を表す“o”が“beck”の末尾についている、ということは、「(ジェフ・)ベックという男」みたいなニュアンスで受け止めておけば良いのでしょうか……?
どなたか、この曲のタイトルにまつわるエピソード等をご存じであれば、教えていただけると有難いです。
―9曲目―
この曲を聴いていると、なぜか「歌がなくても、ちゃんと楽器が歌っている曲はカッコいい」という、何だか当たり前のようなことをあらためて思うのです。聴いてください。
♪ マイケル・シェンカー・グループ「アルサー」
“Ulcer” by The Michael Schenker Group
1982年に発表されたマイケル・シェンカー・グループ3作目のスタジオ・アルバム「黙示録(原題: Assault Attack)」からお送りしました。
個人的には「イントゥ・ジ・アリーナ」や「キャプテン・ネモ」といった名曲にも決して引けをとらない、HR/HMにおけるインスト・ナンバーの傑作だと思っているのですが、どうでしょう。
思うに、曲の構成がかなりストレートで、多くの人がマイケル・シェンカーに期待する泣きの要素やドラマチックな展開に乏しいため、必要以上に過小評価されているような気がしています。
しかも、そのせいか、この曲はあまり話題にのぼることもなく、寂しいやら、悔しいやら……。
MSGの隠れた(?)傑作アルバム「黙示録」にもっと光を。
―10曲目―
さて、今回、最後にお送りするのは、冒頭にお話しした通り、ロックに目覚めたばかりの頃、インストゥルメンタル・ナンバーへの苦手意識を持ち始めていた僕が、最初から最後までまったく飽きることなく集中して聴くことが出来て、ちょっとした感動を覚えた、そんな思い出の曲です。聴いてください。
♪ エース・フレーリー「フラクチャード・ミラー」
“Fractured Mirror” by Ace Frehley
1978年、キッス時代に発表されたエース・フレーリーのソロ・アルバム「エース・フレーリー」からお送りしました。
基本的には、ギターが奏でるキラキラと光り輝くようなメイン・フレーズの繰り返しという、至ってシンプルな構成の曲で、特に劇的な展開を見せるわけでもないのですが、センス抜群のアレンジもあって、いつまでもこの音に包まれていたいと思わせるような、アルバムの最後を飾るに相応しい、最高に美しいインストゥルメンタル・ナンバーです。
この曲のタイトルにある「フラクチャード (Fractured)」という言葉は、以降のエースのソロ活動を象徴するキーワードのひとつで、キッス脱退後に結成したフレーリーズ・コメットのデビュー・アルバム「フレーリーズ・コメット」(1987年)における「Fractured Too」、完全ソロ名義となった最初のアルバム「トラブル・ウォーキング」(1989年)における「Fractured III」、そして「アノマリー」(2009年)における「Fractured Quantum」と、「フラクチャード・ミラー」の流れを汲んだ、魅力的なインストゥルメンタル・ナンバーが幾つも生まれています。
昨年、現地(アメリカ)時間の10月16日、「スペースマン」ことエース・フレーリーは、生まれ故郷の星に帰っていきましたが、彼がこの地球に残してくれた数多の音楽は、永遠に輝き続けるのです。
-今回も最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。
それでは、またお会いしましょう。See Ya!
* * *
ー第22回「インスト」プレイリストー
| No. | 曲名 Song Title | アーティスト Artist |
|---|---|---|
| 1 | キッス愛のテーマ Love Theme From Kiss | キッス Kiss |
| 2 | ルート・ビア・ラグ Root Beer Rag | ビリー・ジョエル Billy Joel |
| 3 | ホット・ロック Hot Rock | コージー・パウエル Cozy Powell |
| 4 | ワマー・ジャマ― Whammer Jammer | J・ガイルズ・バンド The J. Geils Band |
| 5 | ボディ・スペシャルⅠ Body Special I | サザンオールスターズ Southern All Stars |
| 6 | ピーチズ・エン・レガリア Peaches En Regalia | フランク・ザッパ Frank Zappa |
| 7 | いとしの貴女 My Sweetness | スタッフ Stuff |
| 8 | エル・ベッコ El Becko | ジェフ・ベック Jeff Beck |
| 9 | アルサー Ulcer | マイケル・シェンカー・グループ The Michael Schenker Group |
| 10 | フラクチャード・ミラー Fractured Mirror | エース・フレーリー Ace Frehley |
■■