第26回「カバー②」


 皆さん、こんにちは。「くのいち」ことクノテツヤです。

 今回は、前回に引き続き「カバー曲」特集の第二弾をお送りしたいと思います。
さて、それでは余計な前置きは抜きにして、早速いってみましょう。

―1曲目―

 僕は、このカバー曲がキッカケで、あるバンドのことを見直しました。聴いてください。

 1996年に発表されたムーグ・クックブックのデビュー・アルバム「ムーグ・クックブック」からお送りしました。

 ムーグ・クックブックは、僕の大好きな米国のジェリーフィッシュというバンドが解散した後、キーボーディストのロジャー・マニング(後にロジャー・ジョセフ・マニング・ジュニアに改名)が結成したエレクトロ・ポップ・ユニットです。
コンセプトは、ユニット名にもあるムーグ・シンセサイザー(正式には『モーグ』)でオルタナティヴ・ロックを中心としたヒット曲・有名曲をカバーする、という思わずニヤリとさせられるひねくれた世界を繰り広げています。
実際の音は、例えるなら、よくスーパーとかで耳にするBGMのような、チープでゆる~い脱力系サウンドですが、当時、再注目されていたモンド・ミュージックにも通じるその響きが妙に心地良くて、病みつきになりました。

 オリジナルは、アメリカのサウンドガーデンというグランジ・バンドの曲で、彼らのメジャー3作目となるアルバム「スーパーアンノウン」に収録されている彼らの代表曲です。

 ムーグ・クックブックのアルバムで初めてこの曲を聴いた時、僕はオリジナルを知らず、余計な先入観のない状態で、純粋にこの曲を気に入ったのですが、後で、これがサウンドガーデンの曲だと知り、とても驚きました。
なぜ驚いたかというと、僕は、かつてサウンドガーデンに興味を持ち、当時の最新アルバム「バッドモーターフィンガー」に手を出したのですが、その、暗く、重く、抑揚のない(……あくまで当時の印象です)音楽に馴染むことが出来ず、挫折した過去があったのです。
 そんなわけで、半信半疑の僕は、早速「スーパーアンノウン」を手に入れて、自分の耳で確かめてみました。
結果は……お察しの通り、僕はすっかりサウンドガーデンにハマってしまったのでした。

―2曲目―

 初めは、このグループのお洒落で華やかなイメージがチャラく思えて、しばらく敬遠していたのですが、あるとき耳にした彼ら/彼女らの曲の圧倒的なグルーヴ感にすっかりハマってしまいました。そして、ひと際キャッチーなメロディを持つこの曲がダメ押しとなり、以来、ずっと沼から抜け出せずにいます。聴いてください。

 1994年に発表されたザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズ3作目のアルバム「ブラザー・シスター」からお送りしました。

 ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズは、イギリスのクラブ・シーンから生まれたアシッド・ジャズという、ジャズをベースとした踊れるファンキーでグルーヴィーな音楽ジャンルを代表するグループです。

 オリジナルは、アメリカのマリア・マルダーという女性シンガーの曲で、1973年に発表したデビュー・アルバム「オールド・タイム・レディ(原題:Maria Muldaur)」に収録されています。翌1974年にはシングルとして全米ビルボード・チャート第6位の大ヒットを記録、彼女の代表曲となっています。
 マリア・マルダーの官能的な歌声、艶っぽいギターの響き……、そのエキゾチックでロマンチックなサウンドは、まさに月夜の砂漠に浮かび上がるオアシスのように、身も心も心地よく潤してくれます。
 一方、アシッド・ジャズの王者 ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズによるカバーは、オリジナルよりもアップ・テンポで、グルーヴ感を増した、文句なしのご機嫌な1曲に仕上がっています。

―3曲目―

 この曲は、もはやカバーしたミュージシャンの代表曲と言ってもおかしくないほど、見事なハマり具合を見せています。「好き」や「憧れ」を超えて、この曲を完全に自分のモノとした「一体感」を感じます。聴いてください。

 1979年に発表されたキッス7作目のアルバム「地獄からの脱出(原題:Dynasty)」からお送りしました。
リード・ヴォーカルは、僕の大好きなオリジナル・ギタリストのエース・フレーリーです。

 オリジナルは、ザ・ローリング・ストーンズの曲で、1967年に発表したアルバム「サタニック・マジェスティーズ(原題:Their Satanic Majesties Request)」に収録されています。
 このアルバムは、時代を反映したサイケ色の濃い1枚で、同時代のビートルズの傑作「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」と常に比較され、迷作・問題作扱いされていますが、個人的には、かなりお気に入りの1枚です。
たしかに、まとまりがなく取っ散らかった感じはありますが、印象的で魅力的なフレーズやアレンジがそこかしこに散りばめられていて、傑作とは言えないかもしれないけど、なぜか放っておけない愛すべきアルバムです。
 「2000マン」のオリジナル・ヴァージョンは、キッス(というかエース)のストレートなハード・ロック・ヴァージョンとはうって変わって、やけにのどかな雰囲気や、一筋縄ではいかない不思議なリズム展開など、想像とかなりかけ離れたものだったので、最初に聴いたときはちょっと戸惑いました。

 この曲、さすがにキッスの代表曲にはなり得ませんが、エース・フレーリーというミュージシャンのキャラクターには驚くほどピッタリの曲なのでした。
曲調もさることながら、当時における西暦2000年の未来を示す「2000」という数字や、歌詞に出てくる「コンピューター」「プラネット(天体)」といった言葉が、エースの「スペースマン」のイメージと見事に重なるこの曲は、間違いなく彼のキャリアを代表する曲のひとつです。

―4曲目―

 カバー曲と言っても、中にはオリジナルとのギャップが大きすぎて、もはや別物としか思えない曲があります。これは、今まで僕が聴いた中でも最高にぶっ飛んでいるカバー曲のひとつです。聴いてください。

 1980年に発表されたジャパン4作目のアルバム「孤独な影(原題:Gentlemen Take Polaroids)」からお送りしました。

 オリジナルは、R&B・ソウルの枠を超えて後世に影響を与え続ける偉大なミュージシャン、マーヴィン・ゲイの曲で、彼が1965年に放った大ヒット・シングルです。

 僕は、このジャパン・ヴァージョンの摩訶不思議な民族音楽風のリズムと国籍不明の妖しいメロディが大好きで、オリジナル・ヴァージョンは一体どんな感じなのか?と、想像するだけでワクワクしました。
ところが、ようやく手に入れたマーヴィン・ゲイのオリジナル曲を初めて聴いたとき、それがどうしても同じ曲には聴こえず、何かの間違いではないか?と思いました。何とか似たところを見つけようとしましたが、コーラス部分の「Ain’t that peculiar」という歌詞以外には、ほとんど共通点を見つけ出すことが出来ませんでした。
時間が経てば、僕の耳も少しは成長しているのではないかと思い、その後、何度も聴き比べを試みているのですが、いまだに、これがマーヴィン・ゲイのカバーだという確信を持てずにいます……。

―5曲目―

 これは、僕の大好きなアルバムの中の1曲です。コンセプト、個々の楽曲、全体の構成、サウンド・メイキング……と、すべてが緻密で完璧に構築されているアルバムだったので、そこにカバー曲が入り込む余地など無いものと勝手に思い込んでいた僕は、この曲がカバーだと知り、とても驚きました。聴いてください。

 1982年に発表されたドナルド・フェイゲンの初ソロ・アルバム「ナイトフライ」からお送りしました。

 オリジナルは、アメリカのコーラス・グループ ザ・ドリフターズが1956年に発表したシングル曲です。
 ドナルド・フェイゲンのヴァージョンをそらで脳内再生できるほどに聴き込んでいたので、テンポも速く、快活な感じのオリジナル・ヴァージョンを初めて聴いたとき、ちょっと違和感を感じてしまいました。
多分、聴き慣れたロマンチックでノスタルジックなムードを、オリジナル曲に対しても無意識の内に期待していたから、ちょっと肩透かしを食らったように感じたのだと思います。

 こういう話は、この曲に限らずカバー曲にはつきもので、オリジナル曲とカバー曲のどちらを先に聴いていたかで、それぞれの曲の印象がガラッと変わってしまうので、出会う順番というのは大事だな、と常々思っています。
もちろん、実際に出会った順番を逆にして、それを確かめることは出来ないのですが、それでも、例えば、僕がドリフターズの「ルビー・ベイビー」を先に知っていたら、それぞれの曲の印象はどうだったのかな……と想像してしまうのです。

―6曲目―

 お次は、圧巻のコーラス・ワーク、キャッチーで印象的なメロディ、ワクワクする曲の展開にグッと胸を掴まれた、僕の大好きな曲です。驚いたのは、これがカバー曲だったこと、そして、オリジナル曲が何とインストゥルメンタル・ナンバーだったことです。聴いてください。

 1979年にマンハッタン・トランスファーが発表したアルバム「エクステンションズ」からお送りしました。

 マンハッタン・トランスファーは、男女2人ずつの4人編成による米国のコーラス・グループで、70年代末から80年代前半にヒット曲を連発、実力に裏打ちされたエンターテインメント性の高いジャズ・コーラスで多くの人を魅了、一世を風靡する人気を博しました。
 僕がまだ十代の頃、ジャズは何だか難しそうで、ハードルの高い音楽だと思っていたのですが、ヴォーカルもの、中でもこのマンハッタン・トランスファーのジャズ・コーラスは、誰もがすぐに楽しめる親しみやすさがあり、それでいて、ちょっと大人気分も味わうことが出来る、背伸びするにはもってこいの魅力的なものでした。

 オリジナルは、米国のジャズ・フュージョン・バンド「ウェザー・リポート」が1977年に発表した名作アルバム「ヘヴィ―・ウェザー」に収録されている、彼らの代表曲のひとつです。作曲は、バンドのキーボーディスト であるジョー・ザヴィヌル、タイトルは、ニューヨークの有名なジャズ・クラブ「バードランド」にちなんだものです。

 ところで、この「バードランド」のカバーのように、インストゥルメンタル・ナンバーに歌詞を付けて歌うジャズの歌唱法、もしくは音楽ジャンルを「ヴォーカリーズ」と呼ぶことを、最近になって知りました。
そして、1985年にマンハッタン・トランスファーが発表した「ヴォーカリーズ」というジャズ・ヴォーカルの傑作アルバムがあるのですが、今更ながら、そのタイトルに込められた思いがようやく分かったような気がします。

―7曲目―

 この曲をカバーすることが、あの伝説のバンドを結成する動機だった、というのは有名な話です。聴いてください。

 1978年に発表されたイエロー・マジック・オーケストラ(以下、「YMO」)のデビュー・アルバム「イエロー・マジック・オーケストラ」からお送りしました。
生まれて初めて買ったアルバムの1曲目(イントロ的な「コンピューター・ゲーム“サーカスのテーマ”」を除く)という意味でも、僕にとっては忘れることの出来ない1曲です。

 オリジナルは、アメリカのエキゾティカ・ラウンジ音楽の大家マーティン・デニーの曲で、彼が1959年に発表したアルバム「クワイエット・ヴィレッジ」に収録されています。
 この曲の存在がYMO結成のキッカケになったと知った僕は、居ても立ってもいられなくなり、「こんなカッコいい音楽が、本当にそんな時代にあったのか?」と思いながら、マーティン・デニーのCDを手に入れ、自分の耳で確かめてみました。驚いたことに、それは50年代の音楽だというのに、まったく古さを感じさせず、僕の中にスッと入り込んできたのです。
 でも、考えてみれば、それはYMOにも同じようなことを感じていて、いつ何度聴いても新鮮に響く彼らの音楽は、やはり大いなる驚きです。それは、まるで「黄色魔術楽団」がこの世界にかけた、決してとけない魔法のようです。

―8曲目―

 これは、TVのCMでも使われた、勢いのあるカッコいい曲です。この曲がカバーだと知ったとき、「昔のロックン・ロール・ナンバーには、きっと僕の知らないイカした曲がまだ山のようにあるんだろうな……」と想像したら、ちょっと気が遠くなってしまいました。聴いてください。

 これは、1979年にザ・クラッシュが発表したシングルで、オリジナル・アルバムには未収録の曲です。
冒頭でも触れた通り、この曲は日産のエクストレイルというクルマのCMに使われていたので、きっと耳にしたことのある方も多いのでないでしょうか。
「俺は法律と戦った。そして法律が勝ったのさ。」と歌うこの曲は、ザ・クラッシュのオリジナル曲だとしても不思議ではないほど、サウンドも世界観も見事にハマっている1曲です。

 オリジナルは、アメリカのバンド「ザ・クリケッツ」が1959年に発表した曲です。
ザ・クリケッツといえば、バディ・ホリーが率いたバンドとして有名ですが、これは、バディ・ホリーが小型飛行機の墜落事故で亡くなった後の曲で、代わりにクリケッツに加入したソニー・カーティスのペンによるものです。

 僕は、ザ・クラッシュのヴァージョンでこの曲を知ったのですが、他にも、ストレイ・キャッツ、デッド・ケネディーズ、真島昌利さんなど、多くのバンドやミュージシャンにカバーされている、非常に人気の高いロックン・ロールの名曲です。

―9曲目―

 これは、いくつもの驚きと共に、僕の中に強烈な印象を残したカバー曲です。聴いてください。

 2008年に発表されたエレファント・カシマシのアルバム「STARTING OVER」からお送りしました。

 この曲における一つ目の驚きは、歌詞です。
情景が目の前に鮮やかに浮かび上がってくる見事な表現、そして「私がいま死んでも……」という強烈なインパクトを持ったこの一節に、身震いがしました。
 二つ目の驚きは、この曲がエレカシのオリジナルではなく、カバー曲だったこと。
最初に聴いたとき、宮本浩次さんの歌声も、バンドの演奏も、あまりにも完璧なハマりようだったので、エレカシのオリジナル曲だと、何の疑いもなく信じ込んでいました。
 三つ目が最大の驚きで、オリジナルが荒井由実さんの曲だったことです。
この曲は、1976年に発表された荒井由実さんの名義による最後のシングルで、元々有名な曲だったようですが、当時の僕は、ユーミンといえば、「卒業写真」や「中央フリーウェイ」、そして80年代を席巻した、誰もが知っている超メジャーな曲のイメージ位しか無かったので、この「翳りゆく部屋」とのギャップは、驚きを通り越して、衝撃的なものでした。

 この曲で、ユーミン、とりわけ荒井由実時代の楽曲の「深み」や「凄み」に触れた僕は、一度ちゃんと腰を据えてユーミンを聴いてみなければ、と思ったのでした。

―10曲目―

 何てカッコいいHR/HM曲なんだろう……と思っていたら、実は古い60年代の曲がオリジナルでした。聴いてください。

 1983年に発表されたラットのデビューEP「ラット」からお送りしました。

 オリジナルは、メンフィス・ソウルの重鎮 ルーファス・トーマスが1963年に発表した曲で、ザ・ローリング・ストーンズ、エアロスミスなど、多くのバンド/ミュージシャンがカバーしています。

 ラットのヴァージョンには、オリジナルにはないイントロ(これが無茶苦茶カッコいい!)があるので、これは、彼らの憧れであるエアロスミスが、デビュー・アルバム「野獣生誕(原題:Aerosmith)」でカバーしている「ウォーキン・ザ・ドッグ」が元になっていると思います。きっとエアロスミスも、憧れのストーンズがカバーしている「ウォーキン・ザ・ドッグ」を演りたかったんだと思います。
こんな風にカバー曲が繋いでいく「憧れ」の連鎖に、ちょっと胸が熱くなります。

 余談ですが、この曲のイントロのドラムを叩けるようになりたくて、スタジオへ行くたびに少しずつ練習を重ねています。完全に耳コピなので、叩き方が合っているかどうか分からないのですが、右手でカップを叩きながら、左手で行う3連のタム回しが、なかなかピシッと安定しないのがもどかしい……。

* * *

-今回も最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

 それでは、またお会いしましょう。See Ya!

ー第26回「カバー②」プレイリストー

No.曲名
Song Title
アーティスト
Artist
1ブラック・ホール・サン
Black Hole Sun
ザ・ムーグ・クックブック
The Moog Cookbook
2真夜中のオアシス
Midnight At The Oasis
ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズ
The Brand New Heavies
32000マン
2000 Man
キッス
Kiss
4エイント・ザット・ぺキュリアー
Ain’t That Peculiar
ジャパン
Japan
5ルビー・ベイビー
Ruby Baby
ドナルド・フェイゲン
Donald Fagen
6バードランド
Birdland
マンハッタン・トランスファー
Manhattan Transfer
7ファイアークラッカー
Firecracker
イエロー・マジック・オーケストラ
Yellow Magic Orchestra
8アイ・フォウト・ザ・ロウ
I Fought The Law
ザ・クラッシュ
The Clash
9翳りゆく部屋
Kageriyuku Heya
エレファント・カシマシ
Elephant Kashimashi
10ウォーキン・ザ・ドッグ
Walkin’ The Dog
ラット
Ratt

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