一人称


 自分のことをどう呼ぶか?「私」「僕」「俺」…。面と向かっての会話であれば、相手やその場の状況に応じて、呼び方を自然に使い分けることが出来るのに、こうした文章だと、自分のことをどう呼べばいいか、つい考え込んでしまう。

 まずは、あらためて、これまで自分のことをどう呼んできたか、その変遷を振り返ってみる。小学生くらいまでは自分のことを「僕」と呼んでいた。中学生になって思春期を迎えると、周りに対してちょっとカッコつけたくなり、初めの内はドキドキしながら自分のことを「俺」と呼び始める。その後、成長するにつれ、相手が初対面や目上の人の場合、あるいはかしこまった場面などでは、自分のことを「私」と呼ぶようになる……と、こんな風に、自分の世界が広がるにつれ、周りの環境に対応した新たな自分の呼び方を身につけ、使い分けてきた。

 先にも書いたとおり、直接の会話では自然に行っている自分の呼び方の使い分けだが、文章の場合、言葉を届ける相手が目の前にいないので、誰に向けてこの言葉を届けたいのか、対象とする相手の想定が重要なポイントとなる。ここが難しいところだ。

 今回、ホームページを立ち上げるにあたり、参考のため「ホームページにおける文章の書き方」をネット検索で調べてみた。ほぼ全てに共通していたのは、一人称を統一することでサイト全体に一貫性を持たせることが大事、ということだった。

 さて、自分のホームページでは、普段使っている「私」「僕」「俺」の内、どれに統一しようか……。他の人達はどうしているのかなと、色々な人のホームページをのぞいてみるが、それぞれが自分のキャラクターに合った呼び方をしているのであって、そこに正解があるわけもなく、参考にならない。仕方なく、最も一般的で間違いのない「私」を使うことにして、文章の準備を始める。しかし、内容によっては「私」だと違和感があり、どうもしっくりこないものがある。さんざん試行錯誤を繰り返した結果、一人称の統一は断念し、文章の内容および頭に思い描く相手に応じて、最も自然だと思える呼び方を使うことにした。

<結論>:ホームページ内の文章で使用する一人称は基本的に「私」とする。但し、プレイリスト「空想ラジオ」は、読者と一対一のコミュニケーションを想定しているため「僕」を使用する。ブログ「凡人日記」は、基本的に日記という個人的な記録のため、基本的に一人称は使わないが、必要な場合は「自分」とする。全てに共通して、しゃべり言葉(心の声を含む)は、実際に発した言葉をそのまま使うこととする。

 -以上、ここまで長々と書いてしまいましたが、要するに、一人称を統一しきれなかった後ろめたさから、ひとこと言い訳せずにはおれなかった……そういうことです。

 おしまいに余談をひとつ。英語における一人称は「I(主格)」しかないので、今回のように自分の呼び方で悩むことはありません。では、なぜ英語の一人称は「I」しかないのか。その理由については諸説あるようですが、その中で私が「なるほど」と思わず唸ってしまった納得の説を、要旨のみ、以下に記します。

「英語の世界における『自分』とは、話す相手との相対的な関係性で決まるものではなく、『神』という絶対的な存在との関係性によって定義されるものである。そのため、話す相手がどこの誰であろうとも、絶対的な『神』という存在に対する『自分 (=”I”)』は変わることがない」というものです。

 さんざん頭を悩ませた一人称の使い分けも、英語に訳すと、すべてが同じ「I」になるので、それぞれの呼び方に込めたニュアンスを表すことが出来なくなるのは、ちょっと残念なところです。

 それにしても、言葉・言語の持つ奥深い背景は、知れば知るほど興味が尽きません。

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