第24回「イディオム」


 皆さん、こんにちは。「くのいち」ことクノテツヤです。

 さて、今回は「イディオム」特集と題して、タイトルに英語のイディオムが使われている曲をセレクトしてお送りしたいと思います。
 「イディオム」というのは、英語の授業とかにも出てきたかと思いますが、「2つ以上の単語が組み合わさって、本来の意味とは異なる意味を表す慣用的な表現」のことです。
僕の会社員時代の英会話の先生がイディオム好きで、レッスンでもよくイディオムを取り上げていました。会社の英会話レッスンなので、ビジネスに使えるイディオムが中心でしたが、僕自身もイディオム好きなので、知らないイディオムをたくさん教わることが出来て、とても有意義なレッスンでした。
 今でも、新しいイディオムに出会うとワクワクします。

それでは、早速いってみましょう。

―1曲目―

 イディオムには、どうしてそういう意味になるのか、さっぱり見当がつかないものが数多くあります。この曲のタイトルなどは、その代表的な例です。
そして、このイディオムをすんなり覚えることが出来たのは、間違いなくこの曲のお陰です。聴いてください。

 これは、1968年にリリースされて全米No.1の大ヒットを記録した、マーヴィン・ゲイの代表曲のひとつです。実はこの曲、前年(1967年)にグラディス・ナイト&ザ・ピップスが先にシングルをリリースして(録音はマーヴィン・ゲイの方が先です)、大ヒットをとばしています。
ちなみに、この曲を最初にレコーディングしたのはスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズだったそうですが、どういうわけかシングルとしては発表されませんでした。

 ここで使われているイディオムは ”hear ~ through the grapevine” 。
直訳すると、「葡萄の蔓を通じて~を聞く」となりますが、これで「~を(人づての)噂に聞く」という意味を表します。
 由来を調べてみると、電信が発達した19世紀中頃、あちこちに張り巡らされた電信線が葡萄の蔓のように見えたことから、まず “grapevine telegraph(葡萄の蔓のように絡み合った電信線)”という言葉が生まれ、それが転じて “grapevine”という言葉だけで「絡み合った情報網」のイメージや「それを通じて広まる噂話」といった意味を持つようになった、とのことです。

―2曲目―

 このイディオムは、言葉からイメージする光景が少し漫画っぽくて(あくまでも個人の印象です……)、かなりお気に入りのイディオムです。そして、意味を知れば「ああ、なるほど」と納得の表現です。聴いてください。

 1979年に発表されたAC/DC6作目のアルバム「地獄のハイウェイ(原題:Highway To Hell)」からお送りしました。
 このアルバムは、初代ヴォーカリストであるボン・スコットの遺作となってしまいましたが、当時のバンドの勢いと充実ぶりがビンビンに伝わってくる不朽の名盤であり、同時に、次作「バック・イン・ブラック」における大成功への架け橋となった、バンドの歴史を語る上で欠かすことの出来ない重要な作品です。
 そんなアルバムの中で、この曲は、最も前のめりに突き進む性急なビートが聴く者のロック魂を激しく煽り立てる、そんな疾走感にあふれたロックン・ロール・ナンバーです。

 ここで使われているイディオムは、”beat around the bush”。
直訳すると、「茂みの周りを叩く」となりますが、これで「核心を避ける、遠回しに言う」という意味を表します。
 これは、言葉通り、藪から蛇が出てくるのを恐れて、当たり障りのないよう、藪(=茂み)の周りを遠くから、おっかなびっくりしながら棒で突いて回っている、そんな姿が思い浮かびます。

―3曲目―

 この曲のタイトルは、長いこと意味が分からず、僕の頭を悩ませていました。
学生の頃から、何度調べても意味が分からなくて、ずっとモヤモヤしていたのですが、ある日、何気なくネットで検索してみたら、拍子抜けするほどあっさり意味が分かってしまいました……。聴いてください。

 1981年に発表されたヴァン・ヘイレン4作目のアルバム「戒厳令(原題:Fair Warning)」からお送りしました。
 この曲を初めて聴いたときは、何だか暗い雰囲気の地味な曲としか思えなかったのですが、気が付いたらいつの間にか、エディが奏でる美しいギターの響きにすっかり魅せられていました。
そんな風に、聴いている内にどんどん病みつきになる、中毒性の高い危険な曲です。

 ここで使われているイディオムは、” (when/if) push comes to shove” 。
無理やり直訳すると、「『押し(push)』が『強い(激しい)押し(shove)』になったとき」と訳が分からないのですが、これで「いざとなれば」という意味を表します。
 これは、例えば、ちょっとしたいざこざが起きて、最初は小突く(=”push”)程度だったのが、どんどんヒートアップして、しまいには突き飛ばす(=”shove”)ようになってしまった、そんな状況を思い浮かべてもらえればいいかと思います。
つまり、状況がエスカレートして、とうとう最悪の事態に陥り、最終決断を迫られたり、最終手段を取らざるを得ない状態になってしまった……といった、かなり切羽詰まった場面で、何らかの行動を迫られている、そんな「いざ」という状況を示しています。

―4曲目―

 このイディオムは、意外とすんなり覚えられたのですが、これを文法的にちゃんと理解しようとした途端、頭を抱えてしまいました。聴いてください。

 1990年に発表されたダム・ヤンキースのデビュー・アルバム「ダム・ヤンキース」からお送りしました。
 アルバムのオープニングを飾るに相応しい、軽快なハード・ロック・ナンバーです。この曲を聴けば、ダム・ヤンキースがどんなバンドかすぐ分かる、そんなバンドの音楽性を象徴する1曲です。
ダム・ヤンキースは、テッド・ニュージェント(元アンボイ・デュークス~テッド・ニュージェント<ソロ>)、ジャック・ブレイズ(元ナイト・レンジャー)、トミー・ショウ(元スティクス)、マイケル・カーテロンが結成した、いわゆるスーパー・バンドの一つとして話題になりましたが、残念ながらバンドは短命に終わってしまいました。

 ここで使われているイディオムは、”come of age” 。
直訳すると、「(ある)年齢になる」となりますが、これで「大人になる/成人する」という意味を表します。
 ここで肝になるのが”of age”です。今回、あらためて調べてみて、「前置詞”of”+抽象名詞=形容詞」という説明を目にしたとき、「あ~、これって教わった気がする……」と、昔の記憶がおぼろげながら蘇ってきました。
“of age”が「成人の/大人の」という意味の形容詞句で、そうした状態に”come”する、つまり「~になる」という動詞が組み合わさって、「大人になる/成人する」という意味になるというわけです。これが転じて、「成熟する」「本格的な段階に達する」といった意味でも使われます。

―5曲目―

 このイディオムは、言葉の響きがとてもカッコ良くて、意味も分からないのに、タイトルにワクワクしていたのを覚えています。聴いてください。

 LAメタルの人気バンドであったドッケンが1984年に発表、彼らの人気を決定付けた2作目のアルバム「トゥース・アンド・ネイル」からお送りしました。
 僕にとって、ドッケンの曲というのは、それがどれだけ激しい曲であっても、なぜかバラードっぽさを感じてしまいます(あくまでも個人的な感想です)。決して嫌いではないのですが、ずっと聴いていると少し厳しくなってくるときがあります。ところが、この曲は、珍しく最初から最後までガンガン攻めてくる、僕好みのスピード・チューンで、当時からお気に入りの1曲です。

 ここで使われているイディオムは、”tooth and nail”。
直訳すると、「歯と爪」……と何だかよく分かりませんが、これで「必死に、あらゆる手を尽くして」という意味を表します。
言われてみれば、日本語の「石にかじりついてでも」という表現に通じるところがあり、「石に『歯』と『爪』を立てて、何とかしがみつこうとしている」、そんな「必死」な様子が思い浮かびます。

―6曲目―

 イディオムは、誰もが知っている簡単な単語であっても、それらが組み合わさった途端、新しい意味への飛躍が生じるところが、厄介でもあり、とても興味深いところでもあります。そういう意味で、このイディオムなんかは、とても気に入っています。聴いてください。

 1985年に発表されたハートのセルフ・タイトルを冠したアルバム「ハート」からお送りしました。
 当時、人気もセールスも落ち込んでいたハートが、売れっ子プロデューサーであるロン・ネヴィソンとタッグを組み、シングル・ヒットを連発して大ヒットを記録したこのアルバムで、起死回生の復活を果たしました。
 個人的には、この時期のロン・ネヴィソンの派手な音作りがちょっと苦手で、特にキッスの「クレイジー・ナイト」というアルバムがトラウマになっていて、あまりいいイメージがないのですが、ハートの場合は見事にハマったと思います。

 ここで使われているイディオムは、”all eyes”。
直訳すると、「全部(全身)が目」となりますが、これで「注目する」「凝視する」「目を皿のようにして見る」という意味を表します。
全身が目になるほど一所懸命見ている、そんな感じが伝わってくる、いい表現だと思います。
 ちなみに、このイディオムは応用ヴァージョンがあり、“eyes(目)”を”ears(耳)”にしてみると、”all ears”で「傾聴する」「一心に耳を傾ける」という意味になります。

―7曲目―

 このイディオムは、言葉だけでは何だかよく分かりませんが、由来を知ると、俄然面白さが増してきます。聴いてください。

 1988年に発表されたメタリカ4作目のアルバム「メタル・ジャスティス(原題:…And Justice For All)」からお送りしました。
 リリース当時、プログレ色が濃いクセのある曲調もさることながら、特に、ほとんど聴き取れないベースの音、そしてペラッペラに薄いドラムの音が物議を呼んだアルバムで、しかも前作が「メタル・マスター」、次作が「ブラック・アルバム」と、2つの傑作に挟まれ、何だか微妙な位置付けの作品となってしまった感はありますが、なかなか魅力的な曲が揃っています。その中でも、この「ショーテスト・ストロー」は、個人的にかなり入れ込んで聴いていたお気に入りの曲です。

 ここで使われているイディオムは、”(draw a) short(est) straw”。
直訳すると、「(一番)短い藁(を引く)」となりますが、これで「貧乏くじ(を引く)」「損な役回り(を負う)」という意味を表します。
 これは、かつて藁(わら:straw)を使ってくじ引きが行われていたことに由来する表現で、一番短い藁を引いた人がハズレとなり、イヤな仕事を引き受けなくてはならないことから、この表現が生まれたとのことです。

―8曲目―

 イディオムの中には、直訳したものが、そのまま日本語の比喩表現として通用するものがあったりして、興味が尽きません。聴いてください。

 1981年に発売された日本盤ベスト・アルバム「セクシー・ミュージック」(買った当時、僕には、これがベスト・アルバムという認識はありませんでした……)からお送りしました。
 本国では4枚目のシングルとして発表された「ドント・メイク・ウェイブス」ですが、日本では、シングル「セクシー・ミュージック」のB面曲という立場に甘んじることに……。たしかに、一連のヒット曲と比べたら大人しめの曲ですが、甘く切ないメロディがジワジワと効いてくる、そんな、控えめだからこその魅力がたまらない1曲です。

 ここで使われているイディオムは、”make waves”。
直訳すると「波を起こす」となり、これで「事を荒立てる」といった意味を表します。
日本語においても、「波風を立てる」という表現が、同じように「事を荒立てる」といった意味合いで使われるので、とても親しみやすいイディオムだと思います。

―9曲目―

 この曲のタイトルのように、ちょっと背徳的な感じの言葉を使ったイディオムは、個人的に大好物です。聴いてください。

 1987年に発表されたアンスラックス3作目のアルバム「アマング・ザ・リヴィング」からお送りしました。
 アンスラックスの最高傑作との呼び声も高いこのアルバムは、超絶にカッコいいリフの嵐、激しい展開を見せる曲の構成、メロディアスなヴォーカル・ライン、……等々、アンスラックスの魅力が最高の形で表れています。また、この曲をはじめ、アルバム全体を通して聴くことが出来る、チャーリー・ベナンテの超絶ドラミングにぶっ飛んだことも忘れられません。

 ここで使われているイディオムは、”skeleton in the closet”。
直訳すると、「押入れの中の骸骨」となりますが、これで「世間や他人に知られては困る内輪の秘密(恥)」「周りに明かしたくない隠し事」という意味を表します。
 由来を調べてみると、「押し入れに隠しておいた死体が年月を経て骸骨になっていた」という分かりやすいものから、「解剖学者が研究のために違法入手した人間の骸骨を押入れに隠しておいた」という説得力のあるもの、はたまた、「何の不自由もなく幸せそうに見えるご婦人が、実は毎夜戸棚の中の骸骨にキスをするよう夫から命じられていた」という不気味なものまで、色々な説があるようですが、いずれにしても、押入れの中に骸骨があったら、ちょっと他人には言えませんね。

―10曲目―

 英語のイディオムには、やはり言葉の歴史的・文化的な背景から、ラテン語や聖書に由来する表現が少なくありません。この曲のタイトルも、そんなイディオムのひとつです。聴いてください。

 1980年に発表されたクイーン8作目のアルバム「ザ・ゲーム」からお送りしました。
この曲は、同年にシングル・カットされ、全米No.1の大ヒットを記録しました。
 僕がまだ中学生だった頃、初めてこの曲をラジオで聴いた時の衝撃と興奮は今でも忘れません。
印象的なベースラインをはじめとする各楽器のフレーズ、音の質感、効果音を含むアレンジ、そのすべてが徹頭徹尾クールでハードボイルドな雰囲気に貫かれていて、最後の1音まで唯一無二の完璧な世界が繰り広げられています。何より凄いのは、これほど有名な曲にも関わらず、後にも先にも、似たような曲にこれまで一度もお目に掛かったことがないことです。

 ここで使われているイディオムは、”bite the dust”。
直訳すると、「塵を噛む」となりますが、これで「倒れる・死ぬ」という意味を表します。
 これには、古代ギリシャ文学やラテン語の「闘いで倒れて、地面(土・塵)を噛む」という表現に由来するという説や、聖書の「lick the dust」という表現に由来するという説があります。
いずれも、顔から地面に崩れ落ちる様から、「倒れる・死ぬ」を意味するようになったようです。

* * *

 イディオムって本当に面白いですね。その内、第二弾があるかも……です。

-今回も最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。
それでは、またお会いしましょう。See Ya!

ー第24回「イディオム」プレイリストー

No.曲名
Song Title
アーティスト
Artist
1悲しいうわさ
I Heard It Through The Grapevine
マーヴィン・ゲイ
Marvin Gaye
2闇から追い出せ
Beating Around The Bush
AC/DC
AC/DC
3プッシュ・カムズ・トゥ・シャヴ
Push Comes To Shove
ヴァン・ヘイレン
Van Halen
4カミング・オブ・エイジ
Coming Of Age
ダム・ヤンキース
Damn Yankees
5トゥース・アンド・ネイル
Tooth And Nail
ドッケン
Dokken
6オール・アイズ
All Eyes
ハート
Heart
7ショーテスト・ストロー
Shortest Straw
メタリカ
Metallica
8ドント・メイク・ウェイヴス
Don’t Make Waves
ザ・ノーランズ
The Nolans
9スケルトン・イン・ザ・クローゼット
Skeleton In The Closet
アンスラックス
Anthrax
10地獄へ道づれ
Another One Bites The Dust
クイーン
Queen

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