第28回「イディオム②」


 皆さん、こんにちは。「くのいち」ことクノテツヤです。

 さて、今回は、以前お送りした「イディオム」特集の第二弾ということで、再びタイトルに英語のイディオムが使われている曲をセレクトしてみました。 

 それでは、早速いってみたいと思います。

―1曲目―

 イディオムには、動物に関するものが数多くあります。やはり、共通のイメージを思い浮かべやすいからでしょうか。聴いてください。

 1975年に発表されたリッチー・ブラックモアズ・レインボー(次作からは「レインボー」)のデビュー・アルバム「銀嶺の覇者(原題:Ritchie Blackmore’s Rainbow)」からお送りしました。
 このアルバムを初めて聴いたとき、真っ先に気に入ったのがこの「黒い羊」という曲でした。
後で、この曲はレインボーのオリジナルではなく、英国のクォーターマスというプログレッシヴ・ロック・バンドのカバーだと知り、ちょっと複雑な気持ちになりましたが、もともとリッチー・ブラックモアがこの曲をカバーしようと思ったのがレインボー結成のキッカケになったことを知り、何だか少しホッとしました。

 ここで使われているイディオムは、”black sheep (of the family)”。
直訳すると、邦題の通り「(一家の)黒い羊」ですが、これで「(一家の)厄介者/恥晒し/面汚し」「はみ出し者」という意味になります。
 羊の毛といえば、普通は白い毛を思い浮かべますが、まれに黒い毛の羊が生まれることがあります。白い羊の群れに黒い羊が混ざっていると、やたら目立って浮いてしまいます。また、黒い羊毛は染色が出来ないため、白い羊毛よりも価値が低いものとされていたことから、転じて「周りから逸脱した不適格者」の意味を表すようになったということです。

―2曲目―

 よく知っている単語だからといって油断は禁物。何となく雰囲気だけで分かったような気になるのは、間違いの元。情けないことに、このイディオムの意味を取り違えていたことに、長いこと気が付きませんでした。聴いてください。

 1982年に発表されたエイジアのデビュー・アルバム「詠時感~時へのロマン(原題:Asia)」からお送りしました。
 エイジアは、英国プログレッシヴ・ロックの名門バンド(キング・クリムゾン、イエス、エマーソン・レイク&パーマー)に在籍した名だたるミュージシャンが結集したスーパー・グループとして、大きな話題となりました。
プログレッシヴ・ロックの気品を残しながらも、基本的にはメロディアスでポップな音楽性による、コンパクトでコマーシャルな完成度の高い楽曲で人気を博し、セールス的にも成功を収めました。
そして、忘れてならないのは、印象的なアルバム・ジャケットです。プログレ・ファンやアート好きにはお馴染みのロジャー・ディーンによる壮大で美しいイラストレーションに目を奪われます。

 ここで使われているイディオムは、” (in the) heat of the moment”。
直訳すると、「瞬間の熱」となりますが、これで「感情的になって」という意味を表します。
 僕は、高揚感に溢れた曲の雰囲気と言葉の組合せだけで、何となく「熱く燃え上がる瞬間」みたいな意味だろう、と直訳にもならない勝手な解釈をしていました。
易しい英単語にすっかり油断して、長いこと自分の間違いに気付くことが出来なかったとは……何ともお恥ずかしい限りです。

―3曲目―

 この曲を聴いていると、自然と胸が熱くなってきます。このバンドには、こういう胸アツの曲がよく似合います。聴いてください。

 1984年に公開された映画「ベスト・キッド(原題:The Karate Kid)」のサウンドトラック・アルバムからお送りしました……と言いたいところですが、僕はこのサントラを持っていないので、正確を期すならば、サバイバーのベスト・アルバム「アイ・オブ・ザ・タイガー~ザ・ベスト・オブ・サバイバー」からお送りしました……です。
 サバイバーといえば、何と言っても映画「ロッキー3」の主題歌「アイ・オブ・ザ・タイガー」。この曲を初めて聴いた時の衝撃は忘れられません。非の打ちどころがないカッコ良さに一発でノックアウトされました。

 ここで使われているイディオムは、“the moment of truth”。
直訳すると、「真実の瞬間」となりますが、これで「真価が問われる決定的瞬間」「正念場」という意味を表します。
 映画の内容は、簡単に言うと、空手を通じた少年の成長物語であり、クライマックスで訪れる「成長の真価を問われる決定的瞬間」にピッタリくる曲となっています。

―4曲目―

 これはよく使われる有名なイディオムで、他にも数多くの楽曲タイトルに使われています。今回はその中から代表で、個人的にもイチ推しのこの曲をお送りしたいと思います。聴いてください。

 1981年に発表されたアバの8枚目となるアルバム「ザ・ヴィジターズ」からお送りしました。
 この曲は、アルバムからの2枚目のシングルとなりましたが、アバのシングルの中では、かなり地味な部類に入りますが、先日、久しぶりに聴いて、この曲の良さにあらためて気付かされました。

 ここで使われているイディオムは、”head over heels”という不思議な表現です。
「真っ逆さま」を表すこの言葉が、転じて「すっかり夢中になる」「首ったけである」という意味を表すようになった、とのことですが、直訳すると、「頭が踵(かかと)を越える」となるので、これでは「真っ逆さま」にならないのです。普通、「真っ逆さま」というなら、「踵(かかと)が頭を越える」じゃないとおかしいですよね。
どうやら、元々はちゃんと”heels over head”と言っていたのが、いつの間にか語順が逆転してしまったということらしいのですが……。
 英語に限らず、こういうことが起きるのが、言葉の面白いところです。興味は尽きません。

―5曲目―

 このイディオムは、同じ意味を表すにも、ところ変われば、たとえも変わる、ということをあらためて感じさせます。聴いてください。

 1991年に発表されたデヴィッド・リー・ロスの3枚目のソロ・アルバム「ア・リトル・エイント・イナフ」からお送りしました。
 スーパー・グループとして華々しいデビューを飾ったデヴィッド・リー・ロス・バンドも、ビリー・シーンが抜け、スティーヴ・ヴァイが抜け、当初の勢いを失ってしまった感はありましたが、おかげで余分な力が抜けたのか、この3枚目のアルバムは、なかなか充実した作品となっています。個人的に、かなりお気に入りのアルバムです。 

 ここで使われているイディオムは、”(a) drop in the bucket”。
直訳すると、「バケツの中の一滴」となりますが、これで「(全体から見て)ごくわずかなもの」「取るに足らないもの」という意味を表します。
日本語では「大海の一滴」「焼け石に水」「雀の涙」といった表現に相当します。
英国では”a drop in the ocean”という言い方もするらしいです。国によって、表現の仕方も様々だな、なんてことをあらためて思ったりしました。

―6曲目―

 イディオムの中には、直訳でもそれなりに意味が通じてしまうものがあります。こうした場合、それがイディオムだと気が付かなければ、特に突っ込んで調べることもなく、本当の意味に辿り着けないことがあります。僕も時々やらかします(先ほどのエイジアの「ヒート・オブ・ザ・モーメント」も似たような感じですね)。
 例えば、この曲のように、直訳がそのまま邦題にもなっていて、しかも、何となく意味が通じるような場合は要注意です。聴いてください。

 1968年に発表されたストーンズの傑作アルバム「ベガーズ・バンケット」からお送りしました。

 余談となりますが、十代の頃の僕にとっては、名盤の誉れ高いこのアルバムも、有名な「悪魔を憐れむ歌」と「ストリート・ファイティング・マン」以外の曲については、その良さがまったく分からず、なぜ「ベガーズ・バンケット」が名盤と言われているのか理解できませんでした。ロックン・ロールに激しさとカタルシスを求めていた当時の僕には、この土っぽいブルース・アルバムはどうも早過ぎたようです。
 この「地の塩」という曲も、当時は「つまらない曲」としか思えなかったのですが、今ではすっかりお気に入りの曲になっています。

 ここで使われているイディオムは、”salt of the earth”。直訳すると「大地の塩」となりますが、これで「社会の模範となる人」「世の中の腐敗を防ぐ善良な人」という意味を表します。
 これは、新約聖書『マタイによる福音書』5章13節に出てくる、イエスが山上から弟子たちに語った「あなたがたは地の塩である」という言葉に由来したものだそうです。解釈としては様々あるようですが、核となるのは、「地味ながらも社会のために貢献する人」という意味合いです。

―7曲目―

 このイディオムは、まんま文字通りでも意味がちゃんと通じる、素直で分かりやすいものです。聴いてください。

 1977年に発表されたエアロスミス5作目のアルバム「ドロー・ザ・ライン」からお送りしました。
ルーズで印象的なリフを妖しくハードに決める、エアロスミスの真骨頂と言える代表曲のひとつです。

 ここで使われているイディオムは、”draw the line”。
直訳すると、「線を引く」ですが、これで「一線を画す」「許容可能な限界を定める」という意味を表します。
 これは、「線を引く」という行為が、「境界線を定める」ことの比喩的な表現として使われているという、とても分かりやすくてイメージしやすいイディオムで、助かります。
 ちなみに、歌詞の方では、エアロスミスらしく、一線を越えようとしています……。

―8曲目―

 このイディオムも比喩的な表現なので、意味とニュアンスがイメージしやすいと思います。聴いてください。

 1976年に発表されたイーグルスの6作目のアルバム「ホテル・カリフォルニア」からお送りしました。
 ロック史に燦然と輝くこの傑作アルバムの中で、最もファンキーでハードに攻めてくる1曲です。
この曲は、前年イーグルスに加入したジョー・ウォルシュ(元ジェイムス・ギャングのハードロック野郎)のギター・リフを元に誕生したとのことです。また、このメイン・リフ部分のドラム・パターンが無茶苦茶カッコ良くて、しびれます。
 イーグルスは、このジョー・ウォルシュ加入により、ロック・バンドとして一気に飛躍を遂げました。あの「ホテル・カリフォルニア」の印象的なツイン・ギター・ソロも、ジョー・ウォルシュあってこその名演と言われています。 余談ですが、ジョー・ウォルシュはソロ作品もカッコいいので、興味のある方はチェックしてみてください。

 ここで使われているイディオムは、”life in the fast lane”。
直訳すると、「高速車線の人生」となりますが、これで「放埓(ほうらつ)な人生」とか「刺激的でスリルに満ちた人生」といった意味を表します。
 言葉通り、走行車線をおとなしく安全に走るのではなく、アドレナリン全開で追越車線を高速でぶっ飛ばす、そんなスリリングな生き方が思い浮かびます。
そして、マトモでないと分かっていても、心のどこかにそんな生き方に憧れる自分がいたりするので、厄介です。

―9曲目―

 このイディオムの意味はかなり難解です。説明を聞いても、正直言ってわけが分かりません。聴いてください。

 1992年に発売されたメガデス5作目のアルバム「破滅へのカウントダウン(原題:Countdown To Extinction)」からお送りしました。
 スラッシュ四天王のひとつであるメガデスが、音楽性の変化を見せ始めた頃に出した傑作アルバムのオープニングを飾る、疾走感に溢れた名曲です。

 ここで使われているイディオムは、”(by the) skin of my teeth”。
直訳すると「歯の皮(の差で)」となり、これで「ぎりぎりで」「辛うじて」といった意味を表します……が、そもそも「歯の皮」って何?……ということで、調べてみました。
 ネットで見つけたいくつかの説明を総合すると、歯に皮は無いので、「ほとんど存在しない位の差で」という意味になるということです。
 日本語だと、同じような意味で「首の皮一枚」とか「間一髪」という表現がありますが、こちらは、「首の皮(の薄さ)」とか「髪の毛(の細さ)」の具体的なイメージを思い浮かべることが出来るので、あるかないか分からないほどのギリギリな感じ、というのが伝わってきます。
どうして英語のイディオムでは、「歯」なのでしょうか?この点は疑問のままです。
 まあ、こういう説明のつかない不思議な表現が出てくるのも、イディオムの面白いところですが……。

―10曲目―

 このイディオムの意味は、由来を知れば「なるほど」ですが、予備知識無しではちょっと分かりづらいです。聴いてください。

 1972年に発表されたブラック・サバス4作目のアルバム「ブラック・サバス Vol.4」からお送りしました。
 リフの宝庫である傑作アルバム「ブラック・サバス Vol.4」のラストを飾るに相応しい曲で、ブラック・サバスらしさ全開のうねりまくるリフ、組曲風に展開する見事な曲構成、そして最後も印象的なリフで、曲のみならずアルバム全体をビシッと締める、素晴らしい1曲です。

 ここで使われているイディオムは、“under the sun”。
直訳すると、「太陽の下に」ですが、これで「ありとあらゆる」「何もかも」という意味を表します。
 多くの場合、”everything”や”anything”と一緒に使われ、太陽の下にあるすべてのもの、つまり「この世のありとあらゆるもの」といった強調表現として使われるようです。
たしか、昔のレコードやCDに記載は無かったと思いますが、この曲には”Every day comes and goes”というサブタイトル(実際には組曲のタイトルのひとつだそうです)が付いていることから、”under the sun”と組み合わさって、この世の無常観を歌っていることが察せられます。
しかも、この”under the sun”というのは、もともと聖書の「伝道の書」で使われた表現に由来するらしく、「地上に生きる人間の世界」といったニュアンスを含んでいるのだとか。いかにもブラック・サバスらしい言葉の選び方だと思います。

* * *

 イディオムって本当に面白いですね。調子に乗って、いずれ第三弾があるかも……です。

-今回も最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。
それでは、またお会いしましょう。See Ya!

ー第28回「イディオム②」プレイリストー

No.曲名
Song Title
アーティスト
Artist
1黒い羊
Black Sheep Of The Family
リッチー・ブラックモアズ・レインボー
Ritchie Blackmore’s Rainbow
2ヒート・オブ・ザ・モーメント
Heat Of The Moment
エイジア
Asia
3ベスト・キッド~ザ・モーメント・オブ・トゥルース
The Moment Of Truth
サバイバー
Survivor
4ヘッド・オーヴァー・ヒールズ
Head Over Heels
アバ
ABBA
5ドロップ・イン・ザ・バケット
Drop In The Bucket
デヴィッド・リー・ロス
David Lee Roth
6地の塩
Salt Of The Earth
ザ・ローリング・ストーンズ
The Rolling Stones
7ドロー・ザ・ライン
Draw The Line
エアロスミス
Aerosmith
8駆け足の人生
Life In The Fast Lane
イーグルス
Eagles
9スキン・オー・マイ・ティース
Skin O’ My Teeth
メガデス
Megadeth
10アンダー・ザ・サン
Under The Sun
ブラック・サバス
Black Sabbath

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